残る後始末その7-2
自称そこそこ天才は監禁されていた者達を診察するため現場へ。
シェリー君はその場にいたモラン商会の見張りに後始末を任せて3日間眠っていたベッドに逆戻り。今回の消耗は3日前ほどではなかったが1日は安静にする必要がある。
1日あれば特別ゲストは確実に御到着なさる。
保護した被害者達への対応が十分に出来る時間は、正直足りない。
商人はその辺りを弁えて既に手を打っているが……面倒事というのは、列を為してやって来てくれるほどお行儀の良い連中ではない。
あれは決壊した川の水のようなものだ。人の考えなんて意に介さない。
「簡易検査が未だの方はこちらへ。
終わった人は向こうの宿泊施設を無料開放しているのでそちらへどうぞ。食事、入浴、ベッドは全員分あるので慌てないで大丈夫です。」
自称そこそこ天才が医者として動く。
スバテラ村の人々が食事や風呂、寝床の準備をする。
そして、モラン商会がその案内・調整役となり、監禁されていた被害者達の対応は順調に行われていた。
警備官達からは『被害者に話を訊くのは後日にする』と聞いている。
被害者の面子が面子なので警戒も兼ねての協力ということで道中の護衛や警備を手伝って貰った。
被害者達を閉じ込めていた謎の殻は破壊と同時に塵になって消えて証拠と言う証拠はない。
村長から警備官に『事を荒立てないよう、村と町に配慮して欲しい。』と伝えて貰った。
いくつかの場所と人に手を回す必要はあるが、概ね問題無く、順調に回っている。
最悪の事態を想定して『最速の足』に準備をして貰っていたが、被害者の中に容態が著しく悪いという者はいなかった。
万事順調。だから少し気になる、有り体に言えば嫌な予感がする。
これだけのことが起きて、最後がこんなに順調な訳がない……と。
「イタバッサさん、宜しゅうございますか?」
臨時の宿泊所の一室にやって来る者が1人。糸目に金髪、ニコニコ笑顔がトレードマーク。それはモラン商会の一人、ファイ=チード君だ。
「何か、問題でも起きましたか?」
嫌な予感が的中したのかと仄暗い気持ちになると同時に僅かな安堵がそこにはあった。
問題に気が付けたのなら、解決へと進めるから。
「いぃえぇ、大したことではないんですが、ドクターさんの診断が終わって、皆さん宿泊所に向かわれたんです。ただー、困ったことに数が足りないんです。」
笑顔のまま。だが非常に困っている様子だ。
「それはおかしいですね。食事も風呂もベッドもかなりの数を用意してありましたし、ざっと数を数えた感じ、十分だと思ったのですが……」
横流し?盗人?あるいは、誰かに破壊された?警備官の方々には容体や万一を考えてあちこちに分散して抑止力になって貰っていたはずだというのに……
「あのー、勘違いしとります。数が足りないと言ったんは、宿泊所にいる頭数です。
1人足りないんです。外に引っ張り出て来たのは見てるんで、最初っから数え間違いってのはないと思います。
居なくなってます。」
ファイ=チード。彼には得意な、特異な能力がある。
それは人の顔を覚える力だ。しかも、瞬時に、何十人もの顔を正確に覚える事が出来る。
身分証明も難しい状態故に、行方不明者の情報と照らし合わせる時にその力は役に立つだろうと思って連れてきたのだが……予想の斜め上の方向で役に立った。
「ちなみに、その居なくなった人の顔は覚えていますか?」
「勿論です。」
一度で顔を覚える。whoは一度。フーは一度。ふわいちど。フワイ=チド。ファイ=チード。
金髪糸目で裏切りそうな、ふと思いついて生まれたキャラクターです。




