残る後始末その5-3
足りない、足りない、足りない、何もかも、助けるために何もかもが足りていない。
『………骨、肉、血…………足りないのなら……』
「はいそこまで!」
何を考えるかは容易に想像が出来ていたので、しでかす準備の段階で止めた。
「この術式を考えたのは君だろう。なら、この術式が血肉の足りない骨抜きの状態で扱えるものではないという事は誰よりもよく知っているだろう?
馬鹿な真似は止すんだ。自分諸共助けようとしている人間を殺す気かね。」
とはいえ相手はシェリー君だ。瀕死で何とか最後まで組み上げる事は出来る。だからやらせない。
『けれどもう足りないのです。何もかもが。私の力ではもう手の施しようが……』
「考え方を変えるんだ。完全に元に戻すなんて事は考えるな。君の目的は『助けること』だろう?
なら有るはずだ。未だ使えるものが。」
私の術式は破壊してそれまで。壊したものは霧散して無くなる。もう二度と戻らない。
だが、シェリー君の術式は違う。壊したものを己の手中に収めている。それは解析して分解して、創り変える準備が既に出来ている。
嗚呼、私よりもよっぽど邪悪の才能がある。
今すぐにこちらに来ると決めたのなら……いや、いかんいかん、止せ。
私は教授。モリアーティー教授だ。
記憶は無い。悪党だったことは分析出来る。だが、教授である以上、教え子の意志を尊重すると決めたのだ。
「人体は複雑怪奇で再構築の際に間違いが許されない。だが、人体は一つではない、千差万別で、正解は幾らでもある。
完成系は固定された一つの形であるという発想を捨てて、今手元にあるもので自立させる事が出来る完成形を作り出すんだ。
君は一度それを見ている。そして、君はそれを一度解析して分解までしたことがある。」
「しかし!」
「さぁ、時間は限られている。迷う時間があるなら急ぐんだ。殺すか、生かすか!今の君に選べるのはそれだけだ。」
「っ!はい」
手元にある異形の残滓を集めて急いで組み上げる。
人の血肉ではない。だが、分解されればもうただのもの。
それらを欠けた人の構造の中に部品として組み込む。拒絶の無いように、矛盾の無いように、破綻の無いように、自然にそこに元々あったと錯覚するように…………
『どうか、生きてください。』
消え入りそうな灯火が、再び煌めき出す。
消え入りそうな灯火を再び燃え上がらせるために走る。
半身は失った。だが主要な部分はほとんどこちらに持って来ることが出来た。
だが、足りない。もっと寄越せ。
非常食はもう無い。外には武器の匂いが幾つもある。
適当なものを口にしている間に囲まれて叩かれる。抵抗している間に飢える。
良質なものを一口。それで回復してこの灯火を再び燃やす。
凡庸な薫りの数々を抜けて、その先にある芳醇な薫りへと進む。
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