残る後始末その4-3
目の前には自称そこそこ天才の家を破壊した間接的な犯人がいた。
それは精密機器の隙間に入り込んで機器を操るという厄介な性質を持っていた。
だが、今は厳重な拘束はされていない。鉄格子という鉄格子も無い。
先程の場所が『地下牢』だとしたら、今目の前に広がっている場所は『病院』だ。
幾つもの装置から伸びた配線が横たえられた男の身体中に取り付けられていた。
枯れ枝のようになった手足に針を突き刺され、そこから伸びる管の内側は川のように液体が流れていた。
それは大量の栄養と大量の魔力。
健康であればその量は毒となって毒牙を剥くはずだ。
が、その異常な量が、身体の中に呑み込まれていく。それが毒になることはない。
どころか、これでは足りないと貪り続ける。
しかし、貪るほどに枯れ枝は更に萎れて命を失っていく。
「真っ当な医学から外れた治療法とも言えない治療法。医者が見れば額に青筋立てて怒り狂うような暴挙、暴力行為……。
だが、そもそもこれの在り方は真っ当ではない。
なら、常識で判断するだけ無駄だ。」
常識は常識の範囲内でしか使えない。非常識の中で常識は役に立たないおめでたい偏見でしかない。
人間の医学は人間の体の範囲内でしか使えない。人と植物が混じったまま戻れないこの男の体に対して人間の医学は偏見を生み出すだけの困惑の素でしかない。
前の二人はあくまで植物が『付いていた』状態だった。
だから問題になっているのは、付いていたものが万が一体内に残っていたら、或いは当人の意思で隠されていたら……という疑念、そして本人達の自業自得な怪我だけだった。
対して今目の前にいる男は『寄生されている』状態だ。
これが付いているだけなら、人と化け物の境界が明確なら、外せる、引き剥がせる、切り落とせる、削げる、殺せる……。
だが寄生されているこれはそうもいかない。同化しかけている。侵食されている。喰われようとしている。
樹皮のように固くなった皮膚の隙間を狙わねば注射針は刺さらず、臓器を調べようとすれば人間には存在しない臓器が幾つも観測されている。
人間ではないと考えられる。
今も心拍はある。血液も、変色しているが存在している。
少なくともシェリー君は生きていると見なしている。
だが、装着している装置が示す数字は人間のそれではない。
これは人か、植物か。
議論をしたいところだがシェリー君にとってそれは些末なことだ。
これが今も寄生され、主導権を奪われるのではないかと……つまりは命まるごと肥料にされるのではと危惧している。
そしてその危惧が当たっていると、この状況が肯定している。
「………………。」
シェリー君は沈黙して考えていた。
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