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残る後始末その1

 残る後始末その一


 「っ!」

 パジャマ姿で飛び起きたシェリー君。我々と違って三日間眠り続けていたので未だ心は極限状態の最中だ。

 「よく眠れたかね?

 まぁ、三日眠っていたんだ、これは愚問だね。」

 「三日。そんなに……子ども達は?皆さんは?ここはどこですか?」

 「落ち着くといい。先ず、ここはスバテラ町の建物の一室だ。

 ここに君を運んできたのは自称そこそこ天才と商人。

 そして君を着替えさせたのは孫娘だ。で、枕元のそれが誰から贈られたものかは……解るだろう?」

 枕元には大量の木の実に玩具。

 この近辺に花という花は無かったのでその代わり……ともとれるが、それ以上にあの味が印象的だったとも取れる。

 なんにせよ、それは彼女の望むものだ。

 そのためにあの極限状態で術式を改変するに至ったのだから。

 「よかった。本当に、良かった……。」

 純粋な安堵。出会って未だ間も無い赤の他人に対してこの有り様。

 愛が深いとでも言うべきか。


 「教授、この度はありがとうございました。」

 ベッドから降りて立ち上がり、目を瞑って隙の無いお辞儀をする。

 「例には及ばない。私は君の教授として助太刀をしたまでだ。」

 シェリー君と『値』がまともに対峙していたら、『犯罪術式』無しでは決め手が無いまま千日手。そして最後には命尽きていた。

 それに、私としても正義(それ)を名乗られたからには徹底的に叩き潰す他に選択肢はなかった。

 どちらの観点からしても、あの状況で私が動く必要性はあった。

 最適解だった。

 「けれど……私は、最後に行ったあの非道を、決して許しません。」

 目を開く。そこには深く、静かで、穏やかで、しかし炎よりも激しい怒りが宿っていた。

 「あの場で私があの術式を使えるようになることも、相手に余力が無いことも、こうして無事に生還することも全て教授の思惑通りだったとしても、あの時私を焚き付けるためにあの3人を手段として使ったことを、金輪際許す気はありません。

 二度と、あんなことはしないで下さい。絶対に、です。」

 思惑通り……か。

 シェリー君には『反罪術式』を使えるだけの知識と経験、能力があった。

 相手はもう既に私の攻撃で消耗し切って、半身が無くなっていた。

 シェリー君は生還していた。私の能力の全てを駆使してそれだけは(・・・・・)何が相手であっても実行していた。

 たとえ、他がどうなろうとも。

 たとえ、シェリー君が私を永劫拒絶しても。


 だから、私は笑って答えることにした。


 「なら、二度とあんなことにならないように足掻く事だ。

 私は君の教授だ。それ以外に対して義理立てする必要は無い。

 君一人が絶命するか、他多数が絶命するかの瀬戸際とあらば、私は同じことをする。

 その時は、たとえ君がどう足掻いても徹底的に私は立ち塞がる。」

 それに対してシェリー君は更に怒りを露わにする。

 「もし、それが嫌だというのなら、誰かの悲劇を否定したいというのなら、それは君がすべきことだ。

 私は何もしない。出来るとしたら君だけだ。」

 シェリー君が睨み付ける。だが、私も笑みを崩さない。

 「覚えておくことだ。自己犠牲のためには代償が必要だということを。

 その代償はとてもとても重いものになる。君では払えない。

 それがいやなら、学ぶことだ。強くあることだ。成長することだ。

 ゆめゆめそれを忘れるな。」

 震える拳を固く握りしめ、視線は真っすぐ揺らがない。

 「……えぇ。覚えておきましょう。」

 目を瞑り、大きく息を吐いた。



 いいね、そして誤字脱字報告ありがとうございます。

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