爆発する体は捨て身の一手
1歩距離を詰める。すると必死になって後ろに2歩下がる。
つれないことをするなとばかりにこちらは2歩進む。これで1歩近付いた。
そして慌てて牽制するためにありったけの物を乱暴に投げつけながら下がろうとする。
半歩下がる。だが物量にものを言わせて乱暴に投げただけの投擲物には当たらない。
あからさまな術式への警戒。長く伸びる手足を逃亡と牽制にしか使っていない。その程度で私を止められるのなら世話はない。
更に1歩、歩み寄る。それに対して『値』は必死に拒否、左手を肥大化させて殴りつける。だが残念。その拳はもう君のものではない。
手首が滑り落ちて断面が見える。拳が半分に分かれて左右に避けていく。
『犯罪術式』
使わないだけで使えないという訳ではない。
更に1歩進み、無事な腕に触れる。
それにギョッとした様子を見せ、慌てて腕を引っ込め後ろに飛び退く。
「そんなに慌ててどうしたのですか?『近付かずに逃さない』のではないのですか?
私から逃げてしまっては私を逃しますよ?」
余裕綽々、笑顔を見せる。
対して相手はもう何も言わない。怪物だから喋らないのではない。もうこれにはお喋りが出来るほどの余裕が無いのだ。
先程、上半身と下半身に分けても絶命しなかった。もし不死の肉体を持っているなら、無謀な突撃を繰り返し、バラバラにされながらもこちらを消耗させ続ければ勝てる。
それをしない。しかも、自分の体の破壊と喪失をを異様に恐れている。
そうだろうさ。先程から幾度か術式を使って破壊規模、破壊場所を変えてそれぞれの反応を見ていたが、破壊部位の再生速度が徐々に鈍化している。
私が魔力を消耗して攻撃しているように、相手も何らかの力を消耗して再生している。
そして、それはすぐに補給出来るようなものではない。あるいは補給しても破壊の速度に対応出来る程の効率ではない。
さて、君はどこを壊せば困るのかね?
どこを壊せば追い詰められるのかね?
どこを壊せばもう治せなくなるのかね?
もう壊しても壊しても元に戻るものを壊すのには飽き飽きだ。
「もうお終いにする。
最後くらいはこの術式の本当の使い方で壊してやるとしよう。」
距離を詰める。狙うのは手足ではなく胴体。
応用的な術式ではなく、基本の術式を組み、手を伸ばしたその瞬間……
異形の怪物の体にヒビが入った。
私は未だ手を触れていない。そもそもこの術式はヒビを入れるようなものではない。
ヒビは音を立てながら全身に広がり、そして、全身を四方八方に撒き散らしながら爆ぜた。
嫌な予感しかしかなったので当然防御態勢で後ろに下がっていたが、規模はそれなり。至近距離であれをまともに食らっていたら無事では済まなかった。
「ふふ……」
思わず笑ってしまった。
ブックマークが一気に増えていました。ありがとうございます。




