その内で抱くもの
私はそれが恐ろしくてたまりません。
目の前で起きている狂瀾怒濤。嵐の海を小舟で進むような重く暗い死を間近に感じる光景を作り出しているのは他でもない、自分の指先。指先が鳴る度に周囲が爆発するのです。
そして、そんな死の中でその自分は笑っているのです。
私はそれに慄いています。
人は怪物を脅威として見るものです。何故なら人は決して怪物には勝てないから。
その動きに、発言に、表情に、目の奥に光る狂気に、怪物を脅威と見なす素振りは一切ありません。
怪物を徹底的に破壊して、嘲笑して、踏み躙って、子どもが楽しい何かを手にしたように玩ぶのです。
怪物とは、一体どちらの事でしょう?
苦しい。
止めようとしても止まらない。
説得しようとしても耳を貸して貰えない。
目を背けることも出来ない。
逃げられもしない。
相手はもう逃れられないと知っていて、どうしようもない結末が見えていて、だと言うのに何も出来ない自分がいて
知識が私に教えてくれるのです、今目の前で教授が何をやっているのかを。
それは条件さえ知っていれば誰にでも再現できる簡単なこと。
当然、私はその方法を知っていて、そして当然、同じことができてしまうのです。
教授は私の体を使っていて、使い方が違うだけで本質は同じ。
私には死の嵐の中で笑い、怪物を壊しながら玩ぶ力があるのです。
私はこう成り得るのです。
こんな力を持っていたくない。
私はきっと、いつかそれに酔って呑まれて溺れてしまうから。
全然足りない。
僕はもっと圧倒的な力を持っているし有り余る才があるし人から称賛されて崇められて然るべきなんだ。
こんなよそ者にいいようにされているなんて、あってはならないことだ。
さっさとこいつを片付けて、皆を導いて、俺が住むに相応しい城を建てさせて……あれ?
城?何を言っているんだ?そんなものをこんなところに建てて……いや、そうだ。
俺が住むに相応しいのは城だ。最高級の意匠で、最高峰の職人が手掛け、最高最大最強の俺が住む。それになんの疑問を持つんだ?
そしたら町を整備しよう。あんなどこにでもあるような陳腐な町なんて全部ぶっ壊してデカいコロシアムを造って………コロシアムってなんだっけ?
あぁそうだ、思い出した。闘技場だ。人や獣や魔物や魔道具や、兎に角ありとあらゆる闘争をそこに結集させて暴力と策謀と血飛沫と悲鳴と雄叫びと剣戟の音と歓声を混ぜ合わせ、頭からかぶって飲み干すんだ。
それはどんな食い物よりも、どんな美酒よりも、どんな美女よりも、どんな権力よりも、どんな宝物よりも、ずっと私を酔わせてくれる。
そうだ、そのためには力がいる。
もっと、本来これが持っている力を、まだ使っていない力を使わないと。
未だ本気じゃない。もっと力を出せる。まだまだ先がある。
だからお前を寄越せ!
地の底で力に溺れた青年は人知れず呑まれた。
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そういえば、ネットに流れてきたアニメの感想を見たのですが、見事に教授のモノクルが刺さっている方がいました。
ふふふ、そうでしょうそうでしょう。私もデザインを見た時にモノクルにグッときました。




