『悪』はこれを人に向ける
私の名前はジェームズ=モリアーティー。
そういうことにしている。
というのも、私は意味記憶は持っているのだが、エピソード記憶は持っていない。
口を次いで出た名前を便宜上名乗っているから私がもしかしたらジョンやハドソンやレストレードという名前である可能性は否定できない。厳密には本名は不明だ。
私は私の正体も知らない。壁や天井をすり抜け、特定の人間(現状はシェリー君のみ)しか認識出来ず、人の体を自分のものとして動かせる。私の持つ知識の中に今の私の状態を説明出来るものが無い。
体の無い幽霊のような存在故に身体的特徴から情報を得ることも出来ない。
そもそもこの国や周辺の国の文字や文化を知識として全く持っていなかった。
おまけに、『魔法』という法則や体系に関する知識が一切無かった。
一つ。断言出来る事は、私の正体を知るにはもっと広い世界へ足を踏み入れなければ話にならないということだけだ。
穴だらけのチーズの様な存在。
知識はあれど、自意識はあれど、過去が無い。
何もかもが未知数のジェームズ=モリアーティー。
けれど、私には一つ確証があった。
私に過去があったとして、それが今の私の知識を積み上げたのだとしたら、その私は確実に『邪悪』だ。
人を傷付けるために知識を積み上げた人間の
人を陥れるために数多の事を研究した人間の
人を不幸に誘い破滅させる事が生業の人間の
そんな悪意が私の知識にはある。
そして、今の私はシェリー=モリアーティーの様に善であろうとする意志が無い。どころかその逆だ。
悪で良い。悪だからこそ良い。悪こそが私の進む道だ。
無辜の人々の物語を不幸せに終わらせる執筆者であり
善人を嗤って、その行動を踏みにじる事に意味があり
正義の味方を叩き潰して挫くために生まれた根源的悪
私は思い出を消し去ったとて変わらない本質的な悪だ、間違い無く。
だから。あんなことを言われてしまったら、私は在らねばならない。
『何様のつもり?見ての通り。俺は正義の味方だ!』
私の前に立ち、私に刃を向けて、私の前で『正義の味方』を名乗るなら。
私は悪として在らねばならない。
「教授?」
シェリー君を押し退けて私が出る。目の前に広がるのは人間の木10本。
『水流操作』『温度上昇』『音響増幅』
使った魔法はそれぞれ水を操るだけの魔法、一定の場所の温度を上げる魔法、そして発生させた音を魔法で増幅する魔法だ。
標的は10本。その内側で流れる水の流れを操作し、温度を上げ、最後に指を鳴らす
「BANG!」
か細い指先で小気味の良い音が響く。
それと同時に標的が内側から弾け飛んだ。
使ったものは皆単純な魔法。だが操るものの性質を知り、魔法を知り、悪意を持って使えばそれはどうしようもない強力な凶器だ。
参考サイトは次話に載せる予定です。
内容を私が理解出来ているか怪しいので、その時は指摘をお待ちしております。




