ぶっとべ
勝ちの目は最早無くなった。
周囲にはタガが外れた各分野の天才達。
専門の『美』においては引けをとらずとも、他の分野で勝てるほど自称美の天才は人の領域から外れた万能性は持っていなかった。
勝ちの目は無い。ここから先はどう足掻いても負け戦。何をしているかは知らないが『百人力の天才鉄人』と『実験コード:ジュニアインベスト』にしてやられたのだ。
もう負けが決まった戦いだ…………
動き出す家。地上へと近付いていく。
「ご主人様、行き先は?」
モニターから目を離さない様に細心の注意を払いながら答える。
「美味しいものがあって、走れる場所があって……朝日が照らして月が綺麗で、他に何か希望があればそんな場所を探そう。
ここではない何処かへ行って、楽しく暮らせる場所を見つけるとしよう。
そのための最後の仕上げだ。」
「ご主人様…………ありがとう。」
強張った肩に手が置かれた。
さぁ、ここから先が正念場。失敗は許されない。たった一回だけのチャンスだ。
地上へ続くゲートが迫る。破る方法はもう、用意してある。
籠から飛び出す時だ。
爆音と衝撃。それと共にモニターが白く染まる。
光に向かって飛び上がる。
白い光にうっすらと人影が浮かび上がる。
眼下で驚く人の顔。
さようなら。俺達は旅立つ。
ぶっとべ!
自称美の天才は負けた。
『百人力の天才鉄人No.0』の奇策に虚を突かれた。
『実験コード:ジュニアインベスト』改め『ジーニアス=インベンター』の思いやりとそれが振るう技術に負けた。
自称美の天才は負けた。
が、自分が負けることと相手の勝ちをみすみす指を咥えて見ることは別だ。
自称美の天才は諦めが悪く最後まで止まらない。
自分が醜く負けるなら、相手にはそれ以上の醜悪で悲惨な敗北を与える。
それが彼女の最後の悪足掻きだった。
頭の中身を外してパフォーマンスをしていた天才鉄人の内1機を支配下に置いた。
「おやおやおやおやおやぁ?
1機を取り返すのに随分とてこずるじゃありませんか。
けれど1機じゃもうどうにもなりませんねぇ。」
嗤いながら無事な機体をこれ見よがしに動かして見せ、奪われた機体に魔導ハックを仕掛けて再度奪い返そうとする。
決して本気ではない。だから、徐々に奪わせてあげて、足掻かせて、出来るだろうと、善戦出来ていると思わせて、勝てると思ったその直後、あっという間に全て奪って勝てないことを思い知らせて絶望させてやろうという腹積もりだった。
思い知っているのだ、だから思い知らせてやるのは天才ではない。
1機を動かして向ける先は、今空を舞う籠。
お前の思い通りにはさせない。
自分が地獄にいるのなら、アイツは自分より地獄の下にいないといけない。
頭の無い機体が命令を受けて跳躍。しがみ付いた次の瞬間、動力部に過剰な負荷を掛ける。
ぶっとべ!




