『家』の起動
本日三連投中です。ブックマークをしている皆様、お気を付け下さい。
口から飛び出した緊急停止信号端末が正面に居た1機の顔面に迫る。
当たれば精密機器の百人力の天才鉄人は問答無用で少しの間だが確実に停止する。
それは中枢制御端末が向こうの手にあっても同じことだ。
気取られない完全な不意討ち。しかし、間一髪で避けられてしまった。
『生憎とオートにしていますの。当たりませんのよ。』
天才鉄人に気取りは必要無い。不意も無い。
勝ち誇る笑い声が響く。
だが、それに対して今度はこちらが嗤い返す。
「いや、大当たりだ。」
射出された緊急停止信号端末は放物軌道を描いて地面へ吸い込まれていく。そして、着地地点には先程まで囮をしていた首の無いNo.0の機体があった。
『っ今すぐ壊しなさい!』
その叫びに答えるように7機の内4機の狙いがこちらに向けられ、3機は首無しへと向けられた。
目的がばらける。オート操作する時に『何を狙うのか』をはっきり言わないとこうなる。
首の無いNo.0の機が無線で動き出し、受け取った緊急停止信号端末を壊れた手足で投げ付ける。
『緊急停止信号端末』その機能は『百人力の天才鉄人への緊急停止』という限定的なものではない。
もっと広く、精密機器全般に対して緊急停止信号を無理矢理打ち込むものだ。
勝利は一つではない。勝利方法は一つではない。
中枢制御端末を取り返して勝つ。これが一番良い方法だ。
そうすれば万全の用意をさせて、『広い世界へ行って来い!』と背中を101回叩いて、ついでに役に立ちそうなものを渡して、誰にも文句を言わせず送り出すことが出来る。
だが、それはもう出来ない。
この方法だと、万全の用意も出来ていない、励ましの言葉も贈り物も出来ず、追われ逃げる形で送り出すことになるが……足は引っ張らずに出発させられる。
「イッテコイ!」
7機の動きをすり抜け、緊急停止信号端末が中枢制御端末に突き刺さる。
バチリと嫌な音がして、閃光と共に周囲の明かりが落ちる。
同時に今稼働中の百人力の天才鉄人全機がNo.0を除き緊急停止した。
扉を派手にノックする音が聞こえる。だが生憎と招かれざる客人に出す茶も茶菓子も無い。
手を動かす。頭を動かす。世界から色が消えていく、荒い呼吸音や指を動かす音が消えていく。
ハードの組み立て自体はもう終わっている。あとは動かす準備だけ。
その時が来たら飛び立つだけだ。
外から聞こえる音が消えた。
息を吸う。そして指先が更に速く動き出す。
最後、本人の目に移る事は無いが折角だから派手に見せ付けて魅せよう。
これが俺なりの『行ってきます』だ。
とある魔道具を起動する。
「『家』起動!」
部屋中から轟音が響き渡った。




