白馬に乗った王子様よりも
心臓がドキドキする。
好きな人を思う時とは全く違う。
苦しい。すぐ終わってほしい。
怖い。早く終わってほしい。
逃げたい。そうすれば終わる。
「お姉ちゃん……」
黒い波がそこまで迫っている。
彼が『万が一のことがあったら使うように』と用意してくれた風の魔道具を使って黒い波を防いでいるけど、少しずつ入ってくるヤツがいる。
這い回ってその辺に跡を残す白っぽいナメクジと違って、黒いコイツらは壁や地面を食べている。
それに気付いて食べられないように急いで外に追い出す。
徐々に徐々に、入ってくる黒いナメクジの数が増えている。徐々に部屋が齧られてる。
でも、それでも逃げられない。逃げたくない。ここは私の居場所。たった一つ、私が望むもの。
美味しいご飯があって、暖かい所で暖かい毛布をかけて眠れて、私をお姉ちゃんと呼んで慕ってくれる、笑ってくれる人がいる。
そして、ここには彼がいる。
私を救ってくれた人、私の思いとは違うけど……私を思ってくれる、私の好きな人。
ここは彼の帰ってくる場所。
逃げたくない、失くしたくない、私はこの幸せを……守りたい!
「遅くなってすまない、ただいま!」
心臓がドキドキする。
好きな人を思う時はこの音が聞こえないか心配になる。
苦しい、けどそれは彼が私にくれたものの証。生きている証。嬉しいことが、楽しいことが増えた証。
怖い、この隠した気持ちがいつかバレて、否定されたら、私は、生きていけないかもしれない。けど死ぬよりも否定されることの方が怖い。
逃げたい、好きな人が目の前にいて、その人が私達のために颯爽と駆けつけてくれた。なのに私達はナメクジに齧られてボロボロになった服を着て酷い有様だ。こんな姿、見せたくなんてなかった。
「ここまで守ってくれてありがとう!あとは俺に任せてくれ!」
「携帯小型タービン起動。そんなに保たないから早くしろ。」
私の一番好きな人が、人に羽を生やした変な人形に跨ってやって来てくれた。
白馬に乗った王子様じゃないけれど、それは、私にとって何よりも誰よりも素敵で安心する王子様だった。
「手前のせいで俺の研究がパーになっちまっただろうが!ふざけんじゃねぇぞこのボケアマがよぉ!」
顔を真っ赤にした小柄な男が自称美の天才に掴みかかろうとする。
だが、それを許す程『百人力の天才鉄人』の分身は甘くない。
「落ち着いて下さイとは言わないが、それ以上は君も処分の対象になりかねない。
拳を下ろしてもらオう。」
魔道具も無い中、純粋な力で魔道具に叶う訳もなく、自称美の天才は天才の分体に守られて、ラボの入り口に悠々と非難していた。
白馬に乗った王子様……何処が元ネタなのでしょうね?




