鉄人と若人
ナメクジが行軍している。喰い散らかした残りの欠片が行軍の酷さを物語っている。
これほどの数が隠れていたのかと驚嘆せざるを得ない。同時にあまりにも杜撰な警備システムに頭を抱えざるを得ない。
だが、今はそれどころではない。
「うっかり落ちるなよ小僧!」
「解っています!」
『百人力の天才鉄人No.22』に自称美の天才と『デッドドール:ファルサス・ラビール』を預け、代わりに欠損の無い『百人力の天才鉄人No.0』が俺を目的地まで送ってくれている。
飛行ユニットで浮遊する『百人力の天才鉄人No.0』の背に乗って、餌にならないようにしながらラボの通路をゆっくりと飛翔していた。
扉や壁はある程度被害の差はあれど、どこもかしこも穴だらけ。群がる黒い影は未だ足りないとばかりに次の食事へと向かって這い回っている。
「グルメな連中だな。同期した他のNo.曰く、人間が頭からボリボリ食われて……ということは無いらしい。
ここの連中は皆灰汁やら毒が強いから喰えんそうだ。幸いなことに、な。」
俺が落ちないように、そして足元や壁際の悪食ナメクジを刺激しないようにしながら通路を進んでいく。
「にしても、小僧は見ない内に成長したな。」
「人間は成長するので。」
まるで面識があるかのように馴れ馴れしい。
「我々は成長しないからな。大きくなりたければ部品を大きくすれば良い。高性能になりたければ今より高性能な部品に変えれば良い。だが、確かにそれは成長ではない。
仏頂面の小僧が小生意気な小僧になっていた。それは部品だけでは出来ないことだ。
オリジナルもさぞ喜んでいるだろう。」
先程までの機体とは違い、この個体は矢鱈と流暢に喋る。言語に機械的な伝達以上の意思疎通を見出している様な、まるで昔自分が実験室に忍び込んで悪戯をしたあの男の様な。
「何故でしょう?」
疑問をつい、口に出した。
「いきなりどうしたんだ?」
「この行動は不合理極まりない。それは俺自身がよく知っている。
本来ならば今すぐに俺が外に出て、ラボ内のナメクジを一匹残らず溶鉱炉に送り込むのがこのラボのやり方だろう。
なんでそれをせずにこんな……」
「下手な嘘を吐いているのを知りながらその嘘に騙されている理由か?」
「!」
気付かれていた。
「簡単な話だ。
お前さんが下手な嘘を吐いてでも守ろうとする大事なものがあるのなら、それを守る手伝いがしたかったから。
お前さんの知る『百人力の天才鉄人』のオリジナルならそうしている。そうだろう?」
その通りだった。あの爺さんなら、こう言う。
誤字脱字報告、ありがとうございます。




