何本かの手を貸す
鉄槌とは言ったものの、本当に鉄で出来ている訳ではないだろう。
もっと腐食に強く、もっと重く、もっと堅いものだろう。到底生き物の歯が通るようなものではないはずだ。
だからそれに群がる黒いナメクジもどきが落ちた鉄槌に群がり、それが這った痕が腐食したように穴だらけになっているこの光景は異常事態と言えた。
既に暗がりの中の天才達は慌てて逃げた後。気付いたら暗がりに人の気配が無くなり、逃げ遅れた俺達とナメクジが残された。
「逃げルぞ小僧。」
腕の一本を落とされ、腕の根本についているナメクジが自分を侵食していることに気付き、肩の根本から腕のパーツを外して遠くへと投げ飛ばしつつ、もう片方の手で俺と自称美の天才、それに死体人形を器用に担いで走り出す。
腕はもう完食。その辺の椅子やテーブルを貪りだした個体もいれば壁に亀裂を生みながら上へと進んでいく個体もいる。
そして当然、こちらに進んでくる個体もいた。
「No.22から緊急脱出ノ信号を受信。No.71はコアを残しテ完全破壊され、回収信号を発信中。No.98からは隔壁の侵食ヲ確認していル。
自分の部屋に戻ってモあの腕の二の舞になるだけダ。
No.7、8、9からは警戒レベル3への引き上げト対処方法の予測及び提案がされた。
このままだとかじられかねナい。緊急事態につき最短距離を突っ切って外に出ルぞ。」
腕一本の非対称なぞ屁でも無いとばかりに淡々と廊下に出て地面を覆い始めたナメクジを避けながら進んでいく。
「いや……待ってほしい、俺は一度部屋に戻る必要がある。
作動中の大型魔道具がいくつかあって、それがうっかり齧られでもしたらラボ全体に危険が及ぶ可能性がある。」
極めて冷静に、淡々と、感情を抑えてそれが合理的に必要な行動であるように嘘を吐く。
あの子達とここにいるはずの『デッドドール:ファルサス・ラビール』を回収しないといけない。
『警戒レベル3』というのは問題解決のためにラボの設備やラボ内の個人財産の破損を許容することを意味している。
このナメクジを処理するためにラボを汚染したり壊したりする可能性がある危険な薬剤や兵器が使われる可能性があるということだ。
「…………」
『百人力の天才鉄人No.22』が淡々と地面の黒点を避けて走っている。その表情は文字通りの鉄面皮で読めない。
やむを得ないか……
ここまで来たらもうなりふり構わずやる必要が「承知しタ。この先で『No.0』と合流次第お前はゼロと一緒に戻りナ。」
頭の中で志向を巡らせる中、そんな答えが返ってきた。
「やるべき事があるんだろう?ならこの百人力の天才鉄人様が手伝ってやる。
安心しろ。手足の二三貸すくらいどうってことない。」
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