わたしのものだ!
このラボの中に入ることが出来たとしても、出ることは難しい。
それは技術や知識の漏洩を防止するために厳重に管理されている……というだけでなく、ラボの存在そのものを隠匿する意味でも警戒が厳しくなっている。
何せ研究員の大半がお尋ね者か国を追われた犯罪者、あるいは国を滅ぼしてここに来た超危険人物で、やっている研究内容も危険で非合法で研究倫理に反するものばかり。
バレたらあちこちの国から軍が送られてくる。当然ラボも抵抗して、数の軍と質のラボがぶつかる。そうなればはっきり言って、ただの戦争になる。
だから外部に流出することは、特に危険なものが外に出て騒ぎになることはこのラボにとって致命的。
その為に極高温熔解炉が用意されている。都合の悪いもの、危険過ぎて扱いきれないと切ったものを灰にすることで万が一暴走することや流出してラボの発見に繋がること、そして悪用してラボを消滅させる可能性永劫消失させるために。
このラボで出来たものが他から侵入した、しかもそれが危険生物だったとなれば、『申請した研究以外をしてはならない』どころの騒ぎではない。
それをやったとなれば、研究権限を剥奪の上、死ぬまでこの籠の中で飼い殺しにされかねない。
「私の研究は究極の美を追い求める美しき研究。そんな醜悪な生き物を私の研究結果だと思われることは甚だ心外ですの。」
余裕綽々、威風堂々と言わんばかりに胸を張る。だからそこに浴びせ掛ける。
「これが研究課程だとしたら?」
表情が強張った。
「お手元に用意した解析結果をご覧下さい。
この寄生生物を解剖した際、その内臓にとある成分が蓄積されていた事が発覚しました。
それは肌の保湿に有効な成分で、俺はその組成に見た覚えがあったのでラボの過去の研究記録を調べたところ、研究記録や申請の中にその組成がありました。
そのどれもが、あなたの研究でしたよ。」
暗がりの中の騒音が一層強くなる。目の前の表情はより一層険しいものになる。
多分その表情の裏側で言い訳と考えていることだろう。俺がどう追及してくるかと、それにどう対応するかと考えを巡らせていることだろう。
だからここでそれを崩す。
「いや……でもこれじゃぁ決定的な物証にはならないかあ……。」
敢えて大きな声で、独り言を呟く。
「明らかにこれは自然に生まれた生き物ではないし、体内の成分はラボにあった組成と一致している。けれど、それだけだ。」
表情が変わる。
「人工的に生命を作り出す程度なら誰だって出来る。
体内のあの組成だって、外の研究者が似たような研究の過程で偶然にも同じものを作った可能性だって考えられる。
そう考えると、あなたが外に研究の産物を逃がしたと断定するのは難しいかぁ。」
目を向けた先の表情は憤怒一色に染まっていた。
「あれはわたしのものだ!」
吠えた。
自信があるから、誇っているから、それが自己の証明だから。それは絶対に否定出来ない。




