冤罪、無罪、そして断罪へ
追い詰めたつもりが追い詰められている。
「そう、脈!脈がありますの!死体に脈なんてあるわけがありませんの、ほら!」
自称美の天才が周囲の暗がりを見回しながら死体人形の首を片手で締め上げて頸動脈に指を食い込ませる。
死体人形役をご本人がノリノリで演じるつもりだったが、全力で止めておいて良かったとつくづく思う。
それは死体人形……とは名ばかりの100%非人体由来の精巧な偽物。なので首を締めあげても苦痛で悲鳴を上げることはないし、当然脈拍は有る。
「俺の研究分野は魔法工学。
それは俺が考案した擬似拍動発生装置の『銅脈』です。
人形の表面と貼り付けたシールの間に貼り付けています。」
それを聞いて首を掴んでいた腕が乱暴に皮膚を引き裂く。鮮血が飛び散る代わりに薄橙色の薄布の破片が散らばる。
自称美の天才様の手には精巧な偽の皮膚とその裏に隠された偽の動脈を生み出す配線が残る。
「そのシールは人の肌の質感に近付けたもので、御覧の通り、少々触った程度では判別が出来ないものになっています。」
わざと『御覧の通り』を強調して聞かせる。それに対して相手の眉間に皺が寄る。美の天才を自称しているのに聞いて呆れる。
「人肌と誤認するように当然、発熱装置も仕掛けてあります。
眼球部分は光の強弱を判断して瞳孔の収縮を再現するように、大きな音や痛覚に対しては『反射』を再現する動きを、これが今の俺の集大成です。」
頭に『ここで見せる範囲では』という文言がつくが、敢えて言わないまま周囲の暗がりに声を響かせる。
先程まで当たっていたスポットライトはこちらに向いて、自分達の実験対象『実験コード:ジュニアインベスト』の冤罪よりも目まぐるしい成長に注目が集まっている。拍手まで送る者もいた。
それは当然、スポットライトを当てられていた主役にとっては面白くない。
急に端役に出番を盗られたら頭にくるだろう。
「これは何かの間違いですの!私は間違いなく聞きましたの!
『実験コード:ジュニアインベスト』は必ず不正を行っていますの!今からでもしっかり彼の研究室を調べれば動かぬ証拠が山ほど……!」
顔を真っ赤にして青筋を立てながら怒鳴り散らす。
自分にスポットライトが当たらないのが相当嫌らしい。
なら浴びせてあげよう。これから始まる茶番劇の『主役』として。
「さぁ、俺の無罪が明らかになったようなので、これから予めお伝えしてあった次の議題についてお話をしましょう!
そう、彼女のルール違反について!」
そう言って俺が手で示すと、スポットライトが彼女を、自称美の天才を照らした。
「え?」
評価とブックマークを頂きました。
これだけ脱線しているのに、ありがとうございます。有難く頂戴いたします。




