嬉々として潜入。機器として潜入。
彼女が嬉々として潜入調査をしてくれた結果、解ったこと。
1つ、あの自称美の天才の狙いは矢張り俺だったということ。
彼女という動かぬ証拠を使って断罪。
俺の持っているラボでの権限を剥奪して、残った研究の内、医学に関するものを引き継ぐという名目で盗り上げる……というのが筋書きだった。
2つ、あの自称美の天才様は今、スランプに陥っているということ。
本人は否定しているが、あれこれと研究はしているのに新たな発見が無く、焦っている。
どうやらその停滞が今回の凶行に駆り立てたようだ。
そして3つ、彼女にとって美の天才の潜入調査は非常に実りあるものだと解った。ただ、これに関しては正直重要度が低い。何故なら……
「見て見て見ーて下さーい。ご主人様。
物凄く綺麗なドレスを貰っちゃいまーしたー。」
潜入調査をバカンスか何かと勘違いしているのか、帰ってくる度に嬉しそうに戦利品を見せ、そしてそれを身に付けた姿を見せつけにくる。
念のため毎回接触の際には首輪を使ってモニターして、戦利品は精査して、本人の方も健康診断をしているが異常は見当たらない。
ただただ、彼女が楽しそうというだけだ。
まぁいいか。
という訳で、彼女は俺を裏切らず、自称美の天才は動かぬ証拠の生きている死体人形…の偽物を掴まされ、それを他の自称天才連中に証拠として紹介してしまい、現在に至る。
「私は死体人形、『デッドドール:ファルサス・ラビール』。
そちらにいる私の主人様の魔法工学研究の為に作られた魔道具で、それ以上でもそれ以下でもありません。
こちらの方の発言は私の記録している情報とは異なります。」
その言葉を聞いて驚愕の表情を見せる。
「そんな、あなた何を言っていますの⁉
そんなわけありませんの!あなた言っていたでしょう⁉
自分は死にかけていたけど治療して貰って、しっかり生きていると!
いつも体にあった治療痕は実はシールだったと!貴女には脈があったじゃありませんの!
あの男が生物に関する研究をしていると、そう言ったじゃありませんの!」
照明に照らされて、青筋を立てて震えている。
それはそうだ。今まで見ていた彼女は間違い無く生きていた。
嬉々として君の元へ通い、君から洋服の選び方や化粧の仕方、歩き方や仕草まで習ったのは彼女、ラビールだ。
だが残念。今君の目の前にいるのは、この場に連れて来たのは『デッドドール:ファルサス・ラビール』。
ラビールを模して作った精巧な偽物の死体人形だ。
「貴女の仰ったことは記録にありません。」
機械的に、人形がそう言った。




