愛は勝つ?そんな訳……
見違えていた。
ここに来たばかりの生きながら身も心も死人になっていた頃と違う。
首輪を付けて俺のことをご主人様と呼んで笑っていた頃とも違う。
似合う綺麗な服を着せられて、肌に貼っていた縫い跡のシールを剥がしたその姿は別人かと思った。
けれど、こちらを見ようとしていない。顔を伏せて、拳を固く握りしめていた。
あぁ………
「私の目を節穴だとでも思っていたのかしら?
私は美を探求し、より素晴らしい美しさを作り出し、自らも美しい天才。
人体に関しては特に!美しく豊かで富んだ叡智を持っていますの。
触れるまでもなくそれが生きているのか、死んでいるのか解りますの。」
こちらを見ながら彼女の顎を指先で持ち上げ、こちらにその顔を見せつける。
この美を作った自分を誇るように。
この美は自分が作ったのだと宣言するように。
この美はお前のものではないと突き付ける様に。
あぁ………まさか
「死体人形を死体人形と申請して実験の手伝いに使っているというならまだしも、生きている人間を死体人形と偽って申請したのなら、そしてその目的が、彼女自身が、申請外の研究だとしたら、これは重大なルール違反。
『実験コード:ジュニアインベスト』に特別授与された権限は全て剥奪し、本人にも然るべき処置をすべきだと思いますの!」
勝ち誇った笑顔を向ける。それは美しく、そして醜悪な悪意に満ちていた。
あぁ………まさかこんな……
「そちらの言い分は分かっタ。して、『実験コード:ジュニアインベスト』、何カ反論があルか?」
機械的で無情な疑問符が投げ掛けられる。もう俺に出来ることはない。
あれは俺の手から離れてしまった。
あぁ………まさかこんな……こんなに
「……を、聞かせて下さい。」
顔を見せないように、俯いて呟く。
「なんですのぉ?聞こえませんの。」
化けの皮が剥がれ始めている。顔の形が良くても、その本性が皮膚を突き破って見えてくる。
「その子の、俺の作った『デッドドール:ファルサス・ラビール』の言葉を聞かせて下さい。
彼女が生きているのか、死んでいるのか。彼女はこのラボのルールを外れたものか否か、俺の研究にルールを外れたものがあって、それを見たか、彼女の口から聞きたい!
彼女はもう生きていないし、ルールから外れていない。そして俺もルールから外れたことはしていない!」
断言した。それに対して嗤う。
「ハハハハハハ、生憎ですわね。あなたの愛しい愛おしーいお人形さんは私のものですの。
裏切らないと思いまして?愚かですわね。凡人は美の前に抗う術は無く、美の前で理性は無く、美の前では無力なんですの!
憐れな子。この子は私に全てを打ち明けましたの。私はアナタのやったことをすべて聞きましたの。
さぁ、もう一度、私に言った事をここに居る皆に言ってごらんなさい!」
周囲を見渡して勝利宣言をした。
傷一つ無い顔をスポットライトに向けてそう囁いた。
「私は……」
終始無言だった彼女が顔を上げて、口を開いた。
「私は死体人形、『デッドドール:ファルサス・ラビール』。
そちらにいる私の主人様の魔法工学研究の為に作られた魔道具で、それ以上でもそれ以下でもありません。
こちらの方の発言は私の記録している情報とは異なります。」
表情が一切動いていない人形の表情だった。
信じられないという顔が照らされ、息を呑む音が聞こえた。
あぁ………まさかこんな……こんなにこちらの読み通りに進むなんてな。
死体人形ちゃんの生前の名前はラビール。『ジーニアスを愛し、彼に人としての魂を与えた』ので『love you soul』、『ラビュー+ソウル』を縮めてラビール。
愛、愛ですよ読者諸氏。いやそんな訳……




