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乙女な医療行為

 「お前は一度死んだ。だからもう、誰もお前に何かをすることはない。

 ここにいる連中は終わったもの(死んだ者)には誰も興味を示さない。

 治療が終わったらどこへなりとも行くといい。」

 冷たくて、『俺はお前を相手にしない。』と突き放さんばかりの無情な言葉。

 けど、そこに冷たさは一つも無かった。

 何故って、その言葉は私の心を檻から出してくれたから。

 それから私はその人に心を奪われて、理由をつけて今もここにいる。

 自分が外の常識と乖離している事を解り過ぎていて、自分が人と違うと一線を引いて、それでもそこにその人の素敵なところが見えている。

 今は死体人形として、ご主人様として一緒にいるけれど、いつか、もっと近付いて、この人の優しさを、この人が天才とか世間離れとかいう以前にたった一人の人として素敵だと、知ってほしい。

 そして、私はそれを、一番近くで見ていたい。


 「んーうえっ、……まーた眠っちゃったーんですねー。」

 いつの間にか薬液が引いて、肺や鼻に残った薬液も吸い出されていた。

 それでも鼻や喉にこびりついている薬液を吐き出す。

 少しだけ痛みが和らいで体が軽くなった。けど、痛みから離れたことで少しだけ、心が重くなっていく。

 鉄球の扉を開いて、明るく振舞う。

 「あ、そうだー、ご主人(さーま)大丈夫(だいじょーぶ)でーすかー?」

 明るく、軽く、少し距離感が近くて、妙に馴れ馴れしい私。

 私らしくないかもしれないけれど、少しだけ私は私を演じる。

 好きな人に悲しい顔、苦しい顔、怖がっている顔なんて見せたくないから。



 『外科手術』というのを私は今まで見たことがなかった。

 説明をしてくれたからどういう考えでやっているかは何となく解った。

 体の悪さをしている部分を刃物で切って取り除く、体を切ってその中の異常な部分を直接治すということらしい。

 けど、その前段階で人を切る発想は怖かった。

 痛くないのか?死んでしまわないのか?それで本当に治るのか?

 色々聞いて、何度も教えて貰って、それでも解らなくて、それでも解らないなりに覚えたことが一つか二つくらいはある。

 少なくとも、手術をした後に切られた人の血が流れることはあっても切った人の血が流れる事はない。

 切られた人間が暴れた様子も無いのに、切った人間の頬に殴られたような跡があって、唇を切って倒れている。

 そんな話は聞いたことがない。

 「しっかり!ねえ起きて!起きてって!」

 体を揺さぶる。温かい。けど返事をしない。

 何が起こったかわからない。どうすればいい?どうすれば起きてくれるの?

 「えっと……こうなったら人工呼吸ってやつを………」

 「何を言っているんだ?」

 抱えていたご主人様の目が開いた。

 「あー……無事だったんでーすねー。」



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