囚われの鎖は繋がりの絆になって
「その咳してーる子。大事なーんですよねー。」
相変わらず私に心は開いていない。けど、だから解ることがある。
咳をしている子を囲うように、傷付けさせないように守っている。
こんな状況で、心が荒んで、人を蹴落としても足を引っ張ってもおかしくない状況の、人を見殺しにすることさえ慣れてしまえるはずなのに、自分が死ぬかもしれないのに、自分が感染するかもしれないのに今にも死にそうな他人を守っている。
けど、解る。
自分がこうなったことがあるから解る。
この子はもう死ぬ。
どこが悪いとか、何が悪さをしているとかいう問題じゃない。全部が満遍なく弱って死んでいる最中なんだ。
檻から出されて、治療された後で、私は自分の状況について説明された。
解らないことは全て教えて貰った。今まで知らなかった事を沢山知った。
栄養失調と不衛生、それに睡眠不足。これが単純に良くないことだと言われた。
「人の体の中には『免疫』という……例えると、自分の体を守る護衛の兵士軍団がいるそれが免疫だ。
その兵士の食糧が無くなれば兵士はいなくなる。
不衛生になると、体の外から病気の元になる敵が侵攻してくる。
どんな屈強な兵士でも永久に戦い続けることは難しい。不眠不休で戦ったら絶対に負ける。
だから、食べること、綺麗にすること、眠ることは必須だ。
ここに残るなら勝手にするといい。けれど、残るならそれだけは守れ、絶対だ
それと、俺の作ったものに許可無く触れないこと。
危険なものがここには沢山置いてある。」
優しい。物凄く優しい。そう言ってサイコロの人形を使って料理を作ってくれた。
料理の作り方も、体調不良になった時の対処法も、文字や世界のあれこれも。
「助けたーい?」
檻の出入り口を塞がない様に、怖がらないような言い方で、大きな音を立てないように。
そして、信頼をしてもらうために、話を聞いてもらうために、一つ、大きな秘密を明かす。
「彼なーら、多分大丈夫、助けてくれーる。
一生懸命助けてくれる。だって……あんな風になった私を諦めずに、こうしてくれたんだから。」
相変わらず首に取り付けられている首輪に両手を掛ける。
これは、あの日、私を苦しめ、縛り付けていたそれとは違う。
あの日私を終わらせようとしていたものを、あの日の私の安堵と諦めを覆い隠して、否定しているもの。
首の内側にある装置の解除装置に触れる。
何の苦労も無く首輪が二つに分かれる。
「…………」
檻の中から小さく息を呑む音がした。
私にとってこれは絶対に見せたくないもの。とっくに諦めているもの。
けれど、一番見せたくない彼は、それをいつも見て、絶対に諦めない。




