情熱、しかし死体人形
考える頭脳があって、
観察に使える目を持っていて、
追及する手立てがあって。
それなのに、
頭脳を使おうとせず、
自ら両目を閉ざして、
追及の為に手を伸ばさない。
それなのに不十分な自分を天才と呼称して、不十分な自分が誰かの上にあると考えている。
だから追い求めるものに何時まで経っても辿り着けない。
だから誰かが自分の上に立つ可能性を考えられずにキノコの菌床になっている。
何をしているんだ?
目に見えて失敗作の薬品を投与されて、文字通り背中の皮膚を突き破る形でキノコの菌床になるキノコが生えて、同時に手足の骨が作り変えられて粘液を分泌する器官と吸盤になって、自分の手足が崩れ落ちて変わったことを泣き叫んでいるのを余所に、目の前の瀕死の少女を見やる。
騒いでいる2人は正直どうでもいい。
煩いだけで無視をすればそれで済む。
一番気に喰わないのはこっちだ。
もう死にかけていて、次の瞬間には事切れていそうな状況。
体は表面も中身もボロボロで激痛が走っているはずだ。
それなのに、笑っている。
うつ伏せで顔は半分見えないが、見えている半分は苦痛に歪む顔じゃなかった。
むしろ安堵している人間の、安らかな笑みだった。
悪臭と激痛、そして首輪をされて囚われている不自由な中で浮かべるものじゃない。
自分なら怒り、檻を出て、この状況を作った者に仕返しをしている。
そのときの私は自分が恵まれていることを真の意味では理解していなかった。
望めば手に入る環境と伸ばす手があることを恵まれていると思っていなかった。
そのときの私は考えもしなかった。
逃げられない苦痛から唯一逃れる術が死であるときに人はそこに希望を見出だしてしまうことを。
だからその時の私は興味を持った。不思議に思った。
訊いてやろうと思ったのだ。
「という訳でー、私はご主人様に拾われて、無事死にかけかーら元気一杯の死体人形に生まれ変わっー……死に変わったーのでーす。」
檻を少しだけ開けて、その中には入らず、外から話しかける。
外は怖い。恐ろしい。終わりに安堵して喜んでいたのに終わらなかった時の絶望は今も私の記憶に残っている。
そして、その絶望をはね除けてくれた存在も、バッチリ記憶に残っている。忘れられる訳がない。
死ぬまで、死んでも、絶対にこれだけは忘れない。
私のその記憶が、死体人形としての在り方をくれた人の心が、私を突き動かす。
その人が今助けようとしているこの子達は過去の私。
その人はそんな心を否定する。けれど私はその人が否定する心に救われた。助けられた。
私はその心を手伝いたい。
それが死体人形としての私のやりたいこと。
あの人の力になりたい。
ブックマークして下さった方が増えていました。ありがとうございます。
そして、相も変わらず脱線ばかりで申し訳ない。




