怪物の名前は天才
鍵が鍵であると思った試しはない。
けれど、鍵がないのに鍵がかかるとは思いもよらなかった。
「食べられないものは?」
「……………………………………」
首を横に振る。
「そこで寝て咳をしている子どもの知り合いか家族はこの場にいるか?」
「……………………………………」
首を横に振る。
「体調が悪い者はいるか?」
「……………………………………」
首を横に振る。
「子どもはお喋りな生き物じゃなかったのか?」
人間の言葉なら5ヶ国語くらいなら研究者とディベート出来るレベルで話せるし、他種族の言語も日常会話レベルなら余裕でやり取りが出来る。
けれどこれは話が別だ。
こちらの語学力が幾らあっても相手がコミュニケーションの意志を持たないならどうしようもない。
鍵はもうかかっていない。
鉄格子の扉は既に開けた。
それでも子ども達は出てこない。
どころか、開けた扉の先が危険な猛獣の住処か毒の霧の漂う危険地帯であるかのように檻の奥へと逃げて、怯えるように身を寄せあって固まってしまった。
咳は止まらない。
それなのに皆離れようとしない。
目を閉じて、黙っている。
この咳は感染症のそれだ。このまま放っておくと間違いなく死ぬ、4人ともだ。
知識を総動員する。
技術を総動員する。
経験を総動員する。
けれど、有効な手段が見えない。
「……なんでこんなことをしているんだ?」
我に返り、そう呟いた。
熔鉱炉に沈む檻を止めた。
「どうしたんですの?そんなものに興味でも湧いたんですの?」
当然、それを奇妙に思われた。
違う。興味なんて立派なものじゃない。
俺はそれが気に食わなかった。
ここでそれをそのままにしておくと気に食わないままになる。
それが気に入らなかった。否定したかった。
自分と同じ執着心の無い生き物なのに、本質が違う生き物を否定したかった。
殺してはそれが出来なくなる。
「何々、不健康な実験体が丁度欲しかったと……。
貴方一応工学を専門にしているのでは…………いいえ、いいえ、皆まで言わずともこの美しき研究をする美しい天才はこの美しき頭脳と感性で理解しましたの。
つまり、この美しき私に憧れて真似をしたいと、そういうことですのね。
えぇ、美しきものを更に美しくするのは至難の技ですの。この美しき私に相応しき困難かつ美しき残酷な命題ですの。
百点満点の問題を不用意に書き直し、解き直しても、百点は超えられませんの。
けれど、確かに、それならば初級者に相応しいですものね。何せ…………」
0点はどうしたって0点を下回ることはありませんもの。
評価してくださった方がついに300人を超えました。
皆様のお陰で私は楽しく書いています。
誰よりもこの作品を楽しみ味わい尽くしています。
そして、だからこそもっと楽しく味わい深いものにしたいと欲張りになれます。
読者の皆様、いつものことですが、ありがとうございます。




