天才的エゴ
それはある日のことだった。
その日は物資の搬入日で、ラボに様々なものが入ってきていた。
食料品、衣類、嗜好品、実験器具、薬品、実験に使う材料、そして実験体。それらがラボ最上階の巨大ゲートから運び込まれるのだ。
普段なら自称天才共は『籠の竜計画』の関係で俺がゲート近くの設備を使ったり近寄るだけでやたらと警戒する。
こっちとしても放っておけば自室に運ばれてくるものをわざわざ見に行く理由も特にないので研究と発明をしていた。
が。
「専門以外の分野について知ること。それすなわち視野を広げて研究をより深く美しいものにすること。
それを見せるのが我々天才達ともなれば効果はさらに美しいものになりますの。
さぁ、今日は物資搬入の日。たまには受け取りの確認や振り分けを手伝いますの。」
気付いていたとはいえノックもなしに俺の部屋に入ってきた『自称美しき研究をする美しい天才』によって俺は連れ出されて雑用を押し付けられた。
誰も見ていなければ『サイコロ』にやらせることも出来たが……節穴とはいえ最低限の観察力はある。
あれが表向きの俺の技術力と知識では作れないことくらいは半数が見抜けるだろう。
ということで、俺は今、手作業で地上から降りてきた物資の搬入をしている。
食料に衣服、土に種子に苗に毛糸に麻糸に木材に鉄材に到底使いこなせない機材に高価な稀少品の数々。
これの大半が浪費される。活かされるのはほんの僅か。
わざと遅く、一目見て解る数量を指折り数えて見せる。
「美しさはまだまだですけれど、早さはそれなりですのね。
ま、私には敵いませんけれど、誉めて差し上げますの。
矢張り私は美しき研究をする美しい天才。ウットリ…………」
無駄に胸を張り、無駄に足を組みながら指先を動かす。
正直言ってこの人の言う『美しい天才』の意味は全く解らない。
今、俺が見せている速さと大して変わらない速さを維持するために必死になっている。
こんな子ども相手に威張る。そのために皆必死になって見栄を張っている。
そこが理解出来ない。
「けほっ けほっ けほっ けほっ………………」
咳の音が聞こえる。呼吸器系疾患特有の音。
消え入りそうな命の音だった。
「美しくない音ですの。」
表情が鋭く歪んだ。
「実験に使うということは健康状態が良好でないといけませんの。大前提ですの。
ったく、このラボにはこの美しき天才に相応しいものしか入れるなと言っていたのに……話になりませんの。」
その目はこのラボでよく見かけるものだった。
このラボにいる連中の目は皆自分の望むもの、自分の理想しか見えていない。
そして、自分の望まないもの、自分に都合の悪いものは見なかったことにする。排除する。
自分のエゴのためなら都合良く現実の方を力ずくで変える。そのエゴに満ちた目だ。
ブックマークありがとうございます。
PC無しだと苦戦すると思ったのですが、それなりにやれている……と自負しています。更新頻度、落ちずにやれそうです。




