愚かな選択、自分の選択、素敵な選択死
「これが謙虚とはね……」
自分はなにもせずに人任せ、人の威を借る嫌な狐。
その程度の輩が望んで良いのはおこぼれ程度。
人並みが欲しいならせめて人並みに努力せよ。
それをやらずに欲しがるだけ欲しがった末路がこれだ。
怪物の力に呑まれている。
文字通り呑み込まれているのだ。
体表のあちこちから蔓が直に生え、それが手足の変わりになって動き回っている。
よく見ると、蔓と肉の境目が脈打っている。
それは、動脈が脈打っているのではなく、蔓が体から吸い上げているようにしか見えない。
体から生える蔓は瑞々しく、家の先端を侵食していたそれよりもずっと太い。
対して、それが生えている体の手足は枯れ木のように萎れ、細かった。
骨に肉が貼り付いている。それさえも吸い上げようと蔓が脈打つ。
男は血の気の無くなった顔で白目を剥き、蔓に担ぎ上げられている。背中を大きく反らし、上体を揺らしながら顎の骨の形までハッキリ解る口を開けている様は見ようによっては神輿として担がれて喜んでいるようにも見えなくもない。
死にかけの病人の方が幾分か活き活きとしているように映る。
ハッキリ言おう。もう長くない。
謙虚で慎ましやかになった出涸らしの肉体に最早生命維持の力は残っていない。
保証しよう。これは死ぬ人間の体だ。放置しておけば勝手に死ぬ。
見応えのある死体になる。
生きていた頃の面影は無く、人体模型の親戚が転がり落ちるんだ。
愉快だろう?奴の望む存在じゃないか。
世界でもっとも謙虚で慎ましい、控えめで一切口を開かず、どんな侮辱にも暴力にも怒らず争わない、何も欲することの無い死体になるんだから。
「……なんて、ことを。」
それに対するシェリー君の反応は痛ましいものを見る目。
ああ、違う違う。これは痛々しいがそれ止まりだ。
「望んだ上でこの醜態。進んで求めて自らこうなった。
同情も憐憫も哀れみも、する意味がない。」
「その言い方は!」
「何か間違いがあるかね?
身の程を弁えずに飛び付いて調子に乗って戻れないところに来て、散々手を焼かせて、今落ちる。それだけだ。
壊したものの弁償要求をする以外に我々が行うべきことはない。
度し難い愚物の選択が幾ら愚かでどうしようもなくて見苦しくても、それがこちらの選択に干渉しない限り、それは愚物本人のものだ。」
この状況でもなんとか生命維持が出来る設備があった家を破壊する状況を作り、自称そこそこ天才とシェリー君に歯向かう手札を喪い、最早踊り狂って死を待つだけの哀れな愚者になったのも、選択だ。
知ったことではない。
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ありがとうございます。こんなことがおこるなんて、思いもよりませんでした。
本当に、ありがとうございます。




