ヒロインがお姫様だっこ
正に捨て身。
崩壊する破片は爆発に付随する破片ほどではないにしろ、当たれば人の頭蓋を潰せる程度の殺傷力はある。
だというのに回避を考えていない。シェリー君への最短距離を突き進む。そんなことをするものだから蔓の一部が瓦礫に潰される。だがそんなことお構いなしとばかりにこちらへ迫り来る。
合理性の欠片もない。
無駄ばかり。
一手でも届けば良いと、少しでもこちらの邪魔が出来ればそれでいいと言わんばかりの無策の特攻。
だが一刻も早く一秒を争い一瞬を欲するシェリー君に対するいやがらせとしては十二分かつ致命的に効果を発揮する。
蔓は物理的な壁になって遠回りか破壊を強制し、限られた視覚情報を更に狭める。
「退いてください。」
構っていられないとばかりに荒々しく蔓を切断する。
あの自称そこそこ天才に考えがあって実は無事……という希望的観測はしていない。そもそも考えがあってやることが傑作の自爆なわけだ。希望なんて持つだけ無駄だ。
蔓も蔓でお構いなしにシェリー君に向かう。その数は瓦礫で潰され半数以下に減らしてW.W.W.で守られたシェリー君を害することは到底出来ない。それでも、その特攻は確実に邪魔として成り立っている。
「退いて。」
手の中のH.P.が巨大な手の形に変わり、向かってきた蔓が乱暴にむしり取られる。
それでも往生際の悪い蔓は結末が解り切った攻撃を始める。
「…………」
なぎ払い、土煙の中を進む。
無言で無表情。ただ目的を果たそうとして目を動かす。
だから見つけた。
土煙の中、明らかに他と違うシルエットが、そして煙の裂け目から見える人の衣服を。
W.W.W.を最大出力。H.P.の手を伸ばす。
「…………面目無いな。自称そこそこ天才が聞いて呆れる。
そしてありがとう。自称そこそこ天才たる私ともあろうものが着地のことをうっかり忘れていた。」
「そんなことは…………そうですね。次があれば、私を心配させないで下さい。」
蔓が弾かれる中、シェリー君が自称そこそこ天才をお姫様抱っこをしていた。
「絵面としてはそれなりに映えるのだがね。
まったくこういう時に限って目撃者無し、証拠無し、証人無しときた。」
私は離れた位置から傍観していた。
「不甲斐ないが手札が尽きた。
色々とやってもらって更に頼むのも悪いが、アレの最後の詰めをお任せしても宜しいかな?」
顔は真っ赤。息は上がって肩で呼吸をしている有り様。それでも余裕で涼しい表情を顔には貼り付けて視線を送った。
「承りました。」
空中で大の男を抱えながらお辞儀をしたシェリー君が見やる先…………
「謙虚で、慎ましく、控えめで、静かに、穏やかに、争わずにやってきた。
多くを欲さないで過ごしてきたのに……ソノシウチガコレカ!」
土煙が晴れる。
見るも無惨で原型も留めていない家の残骸の中心にそれはいた。
蔓に包まれた、というより囚われた男が蔓に縛られ、こちらを怨めしげに睨み付ける。
より正しい表記は『主人公がお姫様だっこ』となっています。
お姫様の能動態は想像可能なのに受動態は難しい。




