破壊が飛び交い笑いが響き、少女は渦中に身を投じる
家が暴れている。
崩壊が止まる気配は無く、絡み付いていた蔓諸共地面に溢れ落ちている。
蔓が枯れ落ちる、否、落ちて枯れる。落ちて枯れる蔓に注目すればそれは途中で引き千切れたというより、複数の独立した蔓が根本から抜け落ちているように見える。
最初に蔓を切断した時の事を思い出す。
切断された部位と本体が互いに結び付いていた。
今はそれが起きていない。むしろ変色した蔓が家中心へと上っていく。
「切断時は末端が枯れなかったが、今回は枯れた。
違いは……予想できたか否か……それなら先刻のあれも枯れているべきか……では根の損傷……全てを損傷するように引き抜いた訳ではない。
これは蜥蜴が尾を自切する動きに近いと考えるべきか。」
今、家の破壊と枯れ落ちる蔓は完全に別で動いている。
家を破壊したのは自称そこそこ天才。
蔓を枯らしているのは本体だ。
『繋げろ』
『止めて』
『戻せ』
『逃げろ』
『許さない』
『戦え』
『死ぬ』
頭の中で声がするが、構わず切る。
足の骨が砕けて走れなくなった。
鎧が勝手に飛んで無防備だ。
命令したのにこの家は言うことを聞かないで壊れ続ける。
切る、切る、切る。
あの男は逃げ出した。
もうここは使えない。
何よりここはもう自分に相応しい謙虚で慎ましい生活とはかけ離れていた。
逃げよう。それが賢明だ。
逃げよう。それが一番だ。
逃げよう。それはダメだ。
『繋げろ』
『止めて』
『戻せ』
『逃がすな』
『許さない』
『戦え』
『死んでもいい』
蔓の動きが変わった。
蔓の枯死は止まらない。徐々に侵食し、確実に本体に近付いている。
だが、それを引き起こすために自称そこそこ天才の魔道具も喪われている。
それに抵抗しようと暴れている。だがこれは身中の自称そこそこ天才が引き起こしたこと。外的要因ではないし外敵は排除しても止まらない。
暴れるほどに崩壊は加速する。もう脚部は瓦礫と化して枯れた蔓が残っているだけ。根本の辛うじて枯れていない部分が動かそうとしているが柔軟性を喪ったそれは無理な力が加わり砕ける。
破壊の命令は自らの力で自らを壊していく。
嗚呼、当然自称そこそこ天才はそれを知らない。
だが、彼は別の方法別の思考で私と同じやり方に道を見出だし手を染めた。
あの天才はもう完成している。
今から私が手を出したところで本質はもう変わらない。
だが、これは実に…実に愉快だ。
崩壊の音が心地好い。
立ち込める土煙が美しい。
そんな破壊の最中にシェリー君は突き進んでいった。
「させませんよ、絶対!」
降り注ぐ凶器と化した家の欠片を注意深く観察しながらすり抜ける。
だから、立ち込める土煙の中から歓迎しがたい歓待を受けても対応が遅れなかった。
「退いてください!」
鎧袖一触。
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