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床下収納の中の自称そこそこ天才

 『あの自称そこそこ天才が簡単に死ぬ人材ではないという実績はあるが、それでも制圧されて主導権は奪われているという事実がある。』

 教授がそう予想していた通り、自称そこそこ天才は死んでいなかった。

 念のためと家の中には自分以外の者は上げていなかったし、彼女の学業の課題もオーイに預けてあった。

 そして……

 「クラッキング……まさか植物でそれをやるとは思っていなかった……。

 お陰で通常時システムは完全に落ちた。何が自称そこそこ天才(・・)だ。お前はこのままとただの失態(・・)だ。」

 家が唸り、乱暴に全身を揺らして木々を蹴散らして走っているのがここからでも解る。

 普段ならもっと静かで快適に、そしてもっと速く巧く走れるのだが、その様子はない。

 純粋に揺れても乱暴でも構わないと考えて動いているとも取れるが、これだけ鈍間な動きをしている意味は無い。

 「ある程度までは理解していても、所詮ある程度止まり……ということかな?

 でなければここは気付かれて、僕は無事では済まないはずだ。」

 自称そこそこ天才は家から逃げ出す事が出来なかった。

 残念ながら彼は今、『家』の中に居た。

 家の床下。指先しか動かせない。本来は荷物を入れるための、体を押し込めるにはあまりにも足りない空間に自分を押し込めていた。

 床上は蔓が覆っていて、残っていた料理と温かいココアが混ざって撒き散らされたものを啜り、散らばった魔道具を叩き壊し、揺れて落ちてきたものを締め上げて、探していた。

 自分を虚仮にした敵を、厄介な邪魔者の忌々しい頭蓋を握り潰して……あるいは自分の新たな肥料にすべく探していた。

 自称そこそこ天才はそんな中で息を殺し、しかし辛うじて動く指先は動き続けていた。

 やられたと確信した瞬間には最低限の端末だけ手にしてそこに飛び込んでいた。床板を閉めると同時に蔦が部屋になだれ込み、隠れ潜んでいる現在に至る。

 見つかるのは時間の問題で、手の中の端末は『家』の末端も末端の機能しか備えておらず、本体の『家』と比べるまでもない。

 だが、考える事は止めない。

 (してやられた。見事に出し抜かれた。だがそれは今のことだ。これからは違う。)

 手を動かす事も止めない。

 (ここで止まれば外で諦めずに闘っているだろう彼女が死ぬ。それを黙って見過ごすことは絶対に出来ない。)

 人であることを辞めない。

 (死ぬなら死ぬまで足掻く。勝っていないなら勝つまで足掻く。してやられたからなんだ。死にそうだからなんだ。まだ動く。まだ考えられる。やる気なんて無いとしても、勝ち目が無いとしても、足掻かない理由にはならない。)

 探し続ける、自分に出来る事を。

 たとえ彼が自称でもそこそこ天才としての能力を持っているからやるわけではない。

 彼は自分に出来ることを探し続けずにはいられない。

 たとえ彼が『想定外に無能』であろうとも、『規格外の天才』であろうとも、彼はこの状況で未だ折れずにやる。

 もう決して後悔などしたくないから。


 だから、彼は見つけられた。自分のやるべきことを。


 誤字脱字報告ありがとうございます。あっちこっち抜けている小説書きなので助かります。

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