敗北宣言
少し前に遡る。
「メインがやられた。
目は?こんなときに限って不調か。」
言葉に出す。すると少しだけ状況が整理できる。
鋼鉄鳥弾は飛行能力特化でほとんどの機体がこちらと情報のやり取りをする機能を持っていない。
だから視覚共有用の俯瞰機体と会話用の機体も飛ばしていた。が、今ので会話用が壊れ、それから間も無く視覚共有用の機体からの映像も途絶えた。
限られた時間と物質では流石にこの自称そこそこ天才と言えど複数機用意することはできなかった。
打開する手を打たねばならない。
幸い旋回させていた機体は自動操縦にしていた。
お陰で目を瞑ったまま計40羽の飛行を維持する必要がない。とはいえ、自動操縦だと墜ちないように姿勢制御をするのがやっと。
彼女の援護や周辺の探査は難しい。急がねばならない。
向こうは鋼鉄鳥弾の脅威を知っている。急がねばならない。
「俯瞰機体が生きていることを前提にして回線の復旧開始!
平行して万一のためのもう1機……駄目だ部品がもうない!
柱と屋根を削るか?いや、後を考えろそれはない。」
口以上に手が動く。
このままこっちが手出し出来ずにいると千日手になり、最終的にはこちらが手遅れになる。
物量戦が出来るであろうはずの奴が小出しにしている今が好機。畳み掛けるしかない!
考える、それ以上に手を動かす、それ以上に考える、それ以上に手を動かす。
「回線復旧……失敗!破壊された?違う。」
ノイズがかかっているが途切れ途切れ辛うじて映像が見える。
「えぇい、やむ無し再起動だ!」
絶え間なく動いていた『家』のシステムの全てが一瞬途切れる。そして直ぐに再起動する。
「なんだ?」
途切れ途切れの映像が鮮明になり、家が小刻みに揺れ始めた。
『再起動する』
この堅牢な家が一瞬無防備になる唯一の瞬間。
外からその瞬間を目視で把握することは出来ない。そしてその時間は文字通り『瞬く間』でしかない。
だが、それで十分だった。
家から警告音が鳴り響く。
「なんだ、何が起きた?」
狼狽しているようでその手の動きは加速している。
原因を探ろうとするが、探るための計器や装置が言うことを聞かない。
聞くことの無いようにと敢えて耳障りにしたサイレンが頭に響く。
そして、ぱたりと、止まった。
家が動き出す。
重い腰を上げてゆっくり、ゆっくり、初めて歩く子どものようにぎこちなく歩き出す。
「やられた……」
絞り出すような自称そこそこ天才の敗北宣言は軋む音に掻き消された。
向かう先は、もう1人の敵の元。
ふふふ、実は今日、アニメオープニングを歌って下さった七海うららさんに会いに行ってきちゃいました。
素敵な歌を歌って貰っておきながらお礼もないのは私の主義に反する……ということでお礼参りです!
楽しかったです。歌もお写真もこのような催事に参加した経験が全く無く、初めて尽くして心躍りました。勿論、参加した催事が七海さんのだから、というのは当然ありますがね。
七海さんへ
急に来て、驚かせて、本当にごめんなさい。
そしてごめんなさい、私はその驚きがとっても楽しかったです。素敵な思い出をありがとうございました。
ちなみに黒銘菓は年齢性別その他色々不詳なので、その辺は黒銘菓と七海うららさんだけの内緒でお願いします。




