借り物に振り回される道化
人間の腕にあたる枝部分が伸びて突き刺してくる。今まで相手にして来た連中よりは速いが、直線的で何より作られた眼球が目的地を示していた。
こちらはW.W.W.を装備中。この程度の動きなら当然避けられる。
「とはいえ、そこまで甘くはないな……。」
W.W.W.の行動補助を使って身を翻して躱す。杭のように鋭利な先端は離れていく。
軽く躱された。だというのに相手の口角が上を向いていた。
何をするかと構えていたら、案の定、躱した枝の側面から細い枝が生えてきた。
枝分かれする……というには明らかに急成長。そして生えてきた枝はこれまた鋭利で突き刺す気満々。
「ン!」
更に掛け声と共にハリネズミの様になった腕を振り回していく。
振り回す様は人間然としているが、5mを超える得物を、しかもそれを握っているわけではなく、腕の延長として振り回している。
自分の腕が長く、そして重くなったとして、果たして軸が揺れないように振り回す事が出来るだろうか?と聞いてみれば目の前の不自然さがご理解いただけるかな?
「死ね!」
ガリガリバキバキと削る音と砕く音が混ざった奇妙な音を響かせ、周辺の枯れ木を壊しながら振り回す。
シェリー君の真横で空気を切り裂く音が聞こえる、速い。
「潰れろ!」
シェリー君の真横で枯れ木が砕ける、力強い。
「さっさと消えろよ!」
半狂乱で頭に血の昇った状態で振り回すが一切当たらない。
速い。力強い。だが稚拙だ。
「はぁ、飽きるな。」
今まで何度か似たような、というかこれが生み出したと思しき怪物を相手にした。
そちらの方が『自分』を持っていた。
『個性』を持っていた。
自分を活かす『方法』を知り、そのために象っていた。
持っている力を振り回すために異形が己を捏ねていた。
孫娘の肉体を鉢植えにして吸い取り殺そうとしたそこには殺意があった。
先程の2人、1人は暴力を象徴するように腕を考え無しに肥大化させた。
もう1人はこそこそと他を盾にして隠れて自分の手柄とするために駒を増やす能力を得ていた。
町の屋上でやりあった奴は特に良い例だ。
あのときやりあった男の肉体は屈強で頑強。元々の体が肉弾戦に特化していた。
だからこそ、それを生かすために腕を増やして近距離戦を仕掛けてきた。
元々の肉体が土台にあって、それを補足……この場合は補腕するためにあの木々は身に纏われて身を操っていた。
これは活かしていない。ただ真似ているだけだ。
他がやった手法をガワだけ真似して恰好つけているだけ。使われているだけで使いこなしていない。
自分こそが『大元』という顔をしているが、そう言うにはあまりにも格が、格が……
「あまりに小物過ぎる。」
シェリー君の口を使ってそう呟いたのが相手にも聞こえていた。
「誰がだ!」
激高してこちらに両手を向ける。それだけでなく4人目……トーレーと名乗っていた男を背後に隠しておいたのに、このタイミングで飛び出させた。
「小物と呼ぶに相応しい輩が他に居るとでも?この場に該当者は君だけだよ。身の程を知るといい。」
背後に向けられた水滴は男を上に打ち上げる形で爆ぜる。
前方の水滴は集まり大きなものに変わり、前方により大きな爆風として撃ち出される。
押し出された両腕が爆風で圧し潰される。
ブックマークありがとうございます。
そして、2024/10/04のラジオ番組にてアニメOPが流れていました、めでたい。
ネタばらしすると、OP歌手の七海うらら氏のラジオ番組で流れていたという話です。
いやぁめでたい、冠番組ですよ、七海さんおめでとうございます。




