鋼鉄鳥弾の合唱
速すぎて攻撃が当たらない。
先刻からそれは解り切っていた。だが、速すぎて当たらないだけで接触が無い訳ではない。
こちらが手を使って触れようとする時、相手は翼を使って触れていた。
そしてその時は必ず接触することでしかこちらに損傷を与えてこなかった。
接触の瞬間なら、こちらからも手は打てる、手は出せる、手は届く。
だから表面の一部をそれと気付かれないように、そして嗅ぎ付けられるように脆くしておいた。
代わりに、その内側には巨腕から生えた細い腕が互いに手を取って出来た檻が広がっていた。
強引に突き破ってくれば檻に衝突して、羽はもがれて胴体は砕ける。
だから、目論み通りに翼がもがれて飛ぶ勢いそのまま無数の手に殴られ落ちるように衝突して、目の前まで来た無惨で瀕死なそれを、最後に、思い切り潰してやることが出来た。
壊れて砕けて粉々になった。
最高の気分だ。
「植物も快楽に浸るというのは新たな発見だな。これ以降役に立つかは別だけれど。」
声が聞こえる。
「だが、今は役に立つ。その人特有だと思っていた慢心があるなら、それは致命的な隙になる。残念なことに、だが!」
また声が聞こえて、そして、視界が広がった。
直線が描かれる。縦横無尽に走るその直線が切り取った腕は崩れ落ちていく。
ばらばらと。そう、ばらばらと小片となって散っていく。
手の中にあるものを広げて見る。
広げた端から砕けた欠片が落ちていく。
間違い無く壊した、砕いた、粉々にした。
なんでいる⁉しかも、沢山!
鋼鉄の翼が飛来する。無傷のそれが、数多!
鋼鉄鳥弾は飛ぶ程に翼を失う儚い機構の鳥、つまりはどう足掻いても消耗品だ。だがしかし、だからこそ。
「消耗品の良いところは前提として製作がある程度容易なこと。なぜなら、消耗品は量産前提、替えがいくらでも必要だから。
消耗するのに作るのは厄介じゃ話にならないからね!」
拘束で動かし続けた指先が更に悲鳴を上げる。
魔道具越しに巨腕の怪物を相手にして、そして同時に手元では量産体制を整えていた。
『鋼鉄鳥弾全機起動!』
自称そこそこ天才の言葉と共に木塊が完全に切断される。
薄皮を剥くような温いものではない。覆っていた腕の一部が完全に切り落とされた。
「一刀両断が出来ないのなら、十でも百でも用意して伐れば良い。虚仮の一念が岩を穿つなら、この自称そこそこ天才の一念は岩くらい斬ってやろう!」
空から現れた機構の鳥達。それは先刻哀れにも砕けた勇猛果敢な機構鳥と同じ姿形をしている。
「ここからが、これこそが鋼鉄鳥弾の真骨頂だ。」
鋼の翼が伐り尽くされた木塊の周囲を飛び交い、別々の軌道で襲い掛かる。
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