鉢植えに左右される植物
手が触れる。同時に枯れ木が動き出す。その見た目とぎこちない動きはまるでゾンビの様。
多重寄生生物本体は後ろに退がりながら手勢を増やし続けるだけ。積極的にこちらに攻め込まず、手数を増やす事に、いや、自分の盾を増やす事にご執心だ。
「面白いことだ。鉢植えの影響を受ける植物か…………」
向こうで自称そこそこ天才の手の中で駄々っ子の様に足掻いている男。あの男は安直な若者の中でも特に暴力を強調していた。
自分を強く見せるために威圧的に暴力的に振る舞う浅慮で愚かな様。今のあの巨大で暴力しか念頭に無い拳はそれを象徴していると言っても過言ではない。
今、自称そこそこ天才の作った鳥の魔道具に良いように弄ばれているあれの腕を見れば、それの先端が拳の形をしているとしても、拳を開いて指先で物をつまむ事が出来ないことは明白だ。というか、そもそもあれは拳の形を模しているだけで拳ではない。
元から拳の形をしている鈍器。指の形を模した紋様が表面に彫られているだけの木刀に近い。
指は無く、掌も無く、ただそれが衝突したものを叩き壊すためにある凶器。
人が拳を作るのはその形が殴る時に便利だからそう作る。そして、それ以外の時に拳の形が不便だから拳を開いて指を伸ばしている。
これは違う。指先が必要な事態を考えていない。
殴る形だけあれば良い。脆弱な指なんてものを固めるより元から固まっていた方がずっと堅牢で殴りやすい。だからそう初めから作った。それ以外は必要無いと言わんばかりの傲慢さが現れている。
そういう意図が透けて見える。
さて、もう一つ、シェリー君の目の前の男はと言えば……。
見た目に大した変化は無い。目が虚ろで焦点が定まっていないこと、血色が悪いこと、肌が異様に乾燥しているが、手足の数が増えたり肥大化したりと大きな変化がある訳ではない。
それはこちらに文字通り目もくれず、走って森の奥へと逃げている。
周辺の枯れ木に触れ、触れた部分が枯れ木と溶け合い、そして枯れ木が動き出す。
手数は増え、頭数も増え、文字通り数の暴力で圧し潰す戦略。そして、自分は決して前に出ない。枯れ木の兵に押し付けて自分は高みの見物をする気満々。
「この男は人の勢いに乗って、人を盾にして自分は虎の威を借る自分が虎と思い込んでいる哀れな狐の様な振る舞いをしていたな。」
それが今、沢山の頼もしい虎の盾を作って自分はその威を借ろうとしている。
「甘いな。」
あっという間に生まれた枯れ木の兵団がシェリー君に襲い掛かる。
『蒸熱滴爆発』
W.W.W.が光り輝き、雨の様な水滴が全方位に飛び散る。
枯れ木にそれが吸い込んでいく。
同時に枯れ木が爆ぜ飛んだ。
「虎だろうが、虎の威を借りる狐だろうが、虎と思い込んでいる狐だろうが、どれだけ頑張っても虎程度。
私は、虎が恐れる男を知っている。」
硬く冷たい鋼鉄のような精神と、淡々と狙った場所に弾丸を当てるその銃の腕を虎だけでなく人も恐れていた。
いいね、ありがとうございます。
本作の虎殺しの大佐はどんな人かと言われると知る方法が無いのですが、シェリー君の手足となる商会の名前をそれにしているので、教授からの評価はつまりそういうことです。




