使い方が荒いのでよく怒られています
そこから先、3人組が悲しみ混じりに怒るシェリー君に説教をされて、事情を話そうとした3人に『先ずは怪我の有無を調べるのが先です。話はそれから聞きます。よろしいですか?』と静かに同意を求めた。
そんなわけで今、シェリー君、3人組、商人、自称そこそこ天才は自称そこそこ天才の家に居る。
村の診療所や町に新設された設備より、こちらの方が速く確実だ。
三人は簡易ベッドに寝かされて複数の魔道具で全身くまなく調べられている。
「急なお願いを申し訳ありませんでした。」
自称そこそこ天才に無茶振りと非礼を詫びるシェリー君。対して自称そこそこ天才は目を輝かせていた。
「実に良い、とても良い、素晴らしく良い。
高性能で頑丈。相当腕の立つ職人が採算度外視で作ったのだろう。
これを作った職人、さては相当張り切ったな……楽しかっただろう。」
3人組が以前の件のように『鉢植え』にされていた場合、厄介事が町に襲いかかる。
それ自体の対処は難しくないが、目撃者や風評被害という後始末を考えると手に負えなくなる。
ということで3人は検査だけでなく隔離も兼ねてここに居る。
当然、持ち込んだ馬車も隔離対象にして調査対象。『家』の機能を駆使して自称そこそこ天才が装置越しに徹底的に調べ上げていた。
「古い馴染みの職人がいてね、アタシらが商会で働くようになったって言ったら『新たな門出だ!』って言ってね。」
「『商売道具なら良い物を使わにゃならん!』って言うんで、転職祝いで作ってくれたんでさぁ。」
「けどよぉ、流石にこんな立派なのをタダ貰うってのは気が引けたからよぉ、貰ってた経費を全部置いてったんだよぉ。」
精査されながら解説をする3人。
見たところそう特殊な代物ではない。特殊な魔法や素材をふんだんに惜し気もなく使ったスーパーキャリッジ……という訳ではない。
だが、材質が安物や粗悪品という訳ではない。寧ろありふれた物の中で最高級品を集めて作ったという具合だ。
加工も隅々まで手抜きせず徹底して仕事をした痕跡が見える。
とまぁ、こんな十把一絡げの二束三文な評論をするよりも、この一点でこの馬車の評価は決定付けられる。
「君達、崖を降りてここまで来たのだろう?
しかも崖から落ちて、斜面を滑り降りて、最後には側面をこの辺の森の木に思い切りぶつけている……それで傷という傷が無いのは異常だろう。そんな道と呼ぶのも烏滸がましい場所を走破してきたのは異常だろう。勿論、良い意味でだが。」
「自慢の仕事道具ってヤツさね。」
「だなぁ。稼がせて貰ってるよぉ。それ以上に力になって貰ってるよぉ。」
「でさぁ、旦那には頭が上がりやせん。」
横になりながら胸を張る3人。対して自称そこそこ天才は迷いながらこんなことを口にした。
「下世話な話だが、どれくらいの金を製作者のところに置いたか訊いても?」
「……確か、仕事道具揃えるための経費全額だろう?」
「小さな家くらいは買えるくらいじゃなかったかよぉ?」
「奮発しやしたからね。」
「多分足りないな。豪邸一つくらいにはなる。」
3人の血の気が失せたのが見えた。
そして、口々に製作者への御礼の仕方を相談し始めていた。




