2種類12の瞳
心変わりする浮気性な酷く醜い視線がシェリー君へと向けられている。
そんな中、終始一貫している2種類の視線がシェリー君へと向けられていた。
「「「お姉ちゃん!」」」
1つは、素敵な遊び相手を見つけた輝きに満ちた目だった。
見つけたら一目散。子ども達3人は大人の足元を器用にすり抜けて飛び込んできた。
彼らにとって、シェリー君は『村にやって来たお客さんのお姉ちゃん』でしかない。
おやつをくれて、一緒に遊んだお姉ちゃん。
決して『村を救ってくれるかもしれない希望』とか『希望を裏切った小娘』とか『自分達の領域を侵すもの』とか『敵対者』といった妙な妄想と印象を押し付けない。
子どもは先入観を持たない。だから周囲の人間から得た情報を無差別に取り込み成長する。
生まれてからずっとあんな環境に在って、よくもここまで真っ当に育ったものだ。いや、逆か。
生まれてからずっとこの環境で、それが当たり前。
ここを不便な場所だとか、忘れ去られた場所だとか、敗者の寄せ集めの掃き溜めだとはまったく思っていない。
何故ならこの環境しか知らないから。比べるとか僻むとか妬むとか、そんな発想がそもそも無いのだ。
折角あの淀んだ環境に風穴が開いたんだ。
「ほら、おやめ。忙しいんだから向こうで遊んでなさい!」
こちらに背を向け、眉を顰めて子ども達を追い出す。シェリー君が歓迎しようとしている様に目を背けてそのまま行ってしまった。
「あぁ………」
折角の機会を喪って残念でならないという表情。だが周囲の連中はそれに気付いていない。
頬を膨らませながらシェリー君を見ている彼らは新鮮な環境と刺激を受けて、ここに居る連中とは別者になる事を心の底から希望する。
さて、問題はもう1種類の視線だ。
「……………」
その視線は刺す様なものだった。だが、刺すための得物は無く、彼我の実力差から考えてそれは届かない。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ…………」
その視線は血走り今にも殴り掛かりそうで……そして、そんな気概が決して無い腰抜けのものだった。
「 」
その視線は上から目線で値踏みをする目だった。
当然、この村に居る『商人』という危険存在と比べるに値しないレベルの目だ。
そして、ああ、一人足りないな。
「どうしたのでしょう?」
「さぁね。後生大事にしていた安いプライドを砕かれて傷心だろうと私の知ったことではない。」
「それはいかがなものでしょう?」
「厚意の押し付けは感心しないが、だからと言って敵意を押し付ける事はもっと感心しない。
特に、その敵意が理不尽なものならば猶更だ。」




