間が悪いのはどちらか?
予想外の出来事が幾つも起きていた。
靴紐がドアに挟まって転んだ。
転んだ拍子にズボンが破れて着替えるハメになった。
そして急いで仕事へと向かって汗だくになった。
荷物の内容がいつもより大きなものだった。荷物の鍵がいつもより多かった。
暑くて汗が気持ち悪くて風を切るためにいつもより馬車を速く進めた。
結果的にいつもより門をくぐるのが早かった。
この道はいつも無人もいいところ、理由は良くない噂のせい。しかしウチの方針は『効率重視・お客様重視』。涙がちょちょ切れる方針のお陰様で俺達は軽視されている。まぁ結果的に今まで噂の怪物に出会ったことはないから空いている道をただ走るだけだった。つまり結果オーライだった。
だが最近はこの辺りにばら撒かれた噂のせいで道が混んでいる。
慣れていない連中がガタガタ道に泣かされて、止まってひっくり返ってはっきり言ってノロくて邪魔だ。
結果的に予定より遅くなったスケジュールを詰めるために夕食返上で走るハメになった。
《スバテラ村付近 夜》
暗い道を走ることになったが、何とかスケジュールを取り戻せた。前には馬車がいて抜かせない。が、この速さなら問題ない。
『抜かない』のではなく『抜かせない』。
前の馬車はこの道がガタついている悪環境の最中、慣れている自分と同じ速度で走っている。
運転技術もそれなりに高いが、馬車も良いものだろう。それなりに年季の入った馬車だが、こっちの馬車より速い。
払下げ品を安く買ったか、それとも貰ったか……
朝から予想外ばかり。夕食も未だで少し疲れた。
懐に仕込んでおいた非常用の干しブドウに手を伸ばして咀嚼する。
ゆっくり噛む度にブドウの甘味と酸味が口の中に広がっていく。
疲れが少しだけ和らいだ、にしてもこの馬車は何でこの時間まで走ってるんだ?っと!
前の馬車が大きく揺れて跳ねる。車間距離は十分だが何が起こるか分からない。速度を落として……え?
馬車が、急に大きくなった。違う、急いでこちらの馬車を止めた!
馬車が大きくなった訳ではない。急にひっくり返ったのだ。
事故か?石にでも乗り上げたか?違う!今、妙なものを見た。
距離をある程度離していたからこそ俯瞰出来た。今、前の馬車の足元で何かが動いた。
この暗さのせいでそれの正体が何かは解らなかったが、地面が急に盛り上がって車輪をカチ上げる様な動きが見えた。
気のせい?じゃあなんで急に馬車が地面と垂直に、しかも尻の方を地面に付けるようにひっくり返った?
「おいアンタ、大丈夫か⁉」
馬車から降りて様子を見に行った。行ってしまった。
この時すべきだったことは、誰かを心配する事じゃなく、自分が逃げるための方法を模索することだった。
右足に何かが引っかかって、転んで地面が近付いて、何故か次の瞬間体が急に軽くなって宙に浮いていた。
ブックマークありがとうございます。今日気づいたのですが、もうすぐ1300話に到達します。早い。




