アンデッド?勇者?それとも怪物?いいえ通りすがりの運び屋です。
闇夜であったから、目撃者の総数が少なかった。そもそも居たとしてもよく見えず、それが矢や弾丸の類か魔法か怪異か幻覚と思っていた。
もしこれが昼だったら、高速で縦横無尽に動き回る怪物が見えたかもしれない……
「このまま真下へ真っ直ぐだよぉ!」「舌噛むんじゃないよ!」
だからこそ崖を落ちる様に走る馬車を目撃する者は無かった。
崖から落ちて山道をショートカット。ついでに落ちる速度を利用してスピードアップを図る。
地図の出発地と目的地を定規で真っ直ぐ線で結んで道の有無を考えず『最短距離』と宣うなら未だ愚かで済んだ。
無茶と解っていて、道の概念があってなお崖を落ちるルートを描くのは、それに従って崖を落ちるのはもう愚か以上だ。あるいは愚か未満だ。
「この森をこのまま真っ直ぐだよぉ!」
崖落ちして直ぐ猛獣の群生地に突っ込む。
夜行性の獣は当然縄張りに入り込んだ侵入者に気付く。
獣は当然侵入者に容赦しない。
爪で引き裂き喉笛を噛み千切ろうと、思っていた。
獰猛な獣に対して『一匹でも道を阻むなら群れ全部の皮を剥いで絨毯とコートにしてやる』という凄まじい形相で睨み付ける。
慄く獣は当然、大人しく道を譲った。
「このまま真っ直ぐ行って下せぇ。荷は死守しさぁ!」
薬品と器具を手にして、辿り着いたのは激流渦巻く深い川。
そのまま突っ切ろうとすれば沈んで二度と浮き上がらない。
かといって安全に遥か道の先に架かった橋まで行くと回り道。
さあどうする気かと地図を見れば、真っ直ぐ川を横切る線。
少しだけ、川からせり出すようになっている上り坂に馬車が突っ込む。
馬は跳び上がり、馬車もそれに続く。
蹴り跳ばした小石は激流に呑まれ消えていく。
三人組が中に浮かぶ。
そして、馬が一足先に着地し、そのまま全速力で馬車を牽引。後輪が水飛沫でわずかに濡れたものの、そのまま目的地へと進んでいった。
『走って渡れない川があるなら跳び越えれば良いじゃない。』
そんな戯れ言を体現して馬車で川を跳び越えた劇の様な一場面には観劇者が無かった。
「「「依頼の品運搬完了!」」」
そんな訳で、お人好しとも言える三人は二つの目的遂行のために大冒険をして、一つ伝説を打ち立て、そのまま急ぎ足で車検に向かったのであった。
ちなみに、このお話のオチだが、彼らは車検の日付を間違えていて、ギリギリ滑り込んだ車庫でそれを聞かされ、糸の切れた人形の様に地面に崩れ落ち、泥のように丸一日眠ったのであった。
これはあくまで結果論だが、彼らが異常なモチベーションでいつも以上の速度で必死に夜道を駆けたことで件の急病人は救われた……のかもしれない。
ブクマといいね、ありがとうございます。
かいてき三人組もなんやかんやで出世頭ですね……。




