悪意が従順な召使を邪悪な主人に変える
「ジーニアス様は、失礼になるかもしれませんが、これに類するものをご存じですか?」
「無い、全く無い。自称そこそこ天才を称しておいて情けない限りだ。そちらの商人の御仁は?」
「私も記憶に御座いません。商品リストにもそれらしいものは……そもそもこんなものが有ったら大問題大事件ですね。
このレベルの代物が一般の流通網に流れれば確実に捕まりますからね。作った側も売った側も買った側も運んだ側も……。」
「それはそうだ。その辺の分野は植物に関する法律やら軍事に関する法律やら何やらでガッチガチに制限がかけられているから作ろうとした段階でお縄を頂戴することになる。
非合法なら話は別だが……そうなら向こうは全力で隠しにいくだろう。
となると、自生か…………」
表情が暗くなる。持ち込まれたものであれば追跡の余地は幾らでもあるが、自生となると本格的に手掛かりが無くなる。
この場所は我々が更地にしたばかり。そんな中でも生き残っていた種子が居た場合、町が比喩抜きで丸ごと肥料にされかねない。
さて、この状況下で次の手はどうするか?
あくまで『商売をしに行く』という体だ。
積まれている商品は一般的に流通しているものばかり。それを仕入れようと売ろうと使おうと誰にも文句は言われない。誰にも怪しまれない。ありふれた商品達。
しかし、それらを悪意で組み合わせていくと別のものを作り出せる事はあまり知られていない。売っている者でも知っている者の方が少ないだろう。
何故なら、それは作り手の望まない使い方だから。
例えばこんな使い方。
干し草の塊の中に空間を作り、着火部分先端に氷を取り付けた着火用魔道具を着火出来る状態で埋める。この時使用する着火用魔道具は着火の為に燃やすものに突き刺す金属部分が棒状であり、長いと望ましい。
これを気に入らない店や家に売りつけるなり、干し草を小さくして近くに燃えるものがある場所にこっそり投げ込むなりして逃げる。
魔道具は精密な装置であり商品だ。制作の段階で使用される環境をある程度シミュレーションして、使用可能な環境をある程度広げるという話だ。
例えば、着火用魔道具はどこででも使われる。そして、焚火等が必要になる低温環境である事も多々ある。
このタイプは金属の先端部分を高温にして周辺を燃やす。だから周辺が低温だと燃やすためにより高温になる。
そして、聞いた話だと温度を計測する部分は先端にあると聞いている。
先端を氷で冷やして必要以上に出力を上昇させて、根元部分に可燃性のものを接触させておくとどうなるか?
着火用魔道具が点いていても、氷が冷やして融けている内は水分のお陰でなんてことはないが、融けて無くなり、金属部分が乾くとあっという間に燃える。
周囲の干し草に火を点けてあっという間に大きな火になり魔道具そのものを燃料にして爆ぜる。
お手軽な放火用魔道具。
だが、材料はどこにでも売っている着火用魔道具と氷と干し草。
怪しまれることはない。
落ち着きなさい私。評価とブックマークといいねが連日増え続けていますが落ち着くのです私。
こんな時はそう、フィボナッチ数列を数えるんだ。フィボナッチ数列は過去が現在を、現在が未来を作り出す素敵な数列。私に力をくれる……。
本当にありがとうございます。身に余る光栄です。お陰様で最近、時々ですが、なろうの一部ランキングに、本作が載っています。




