荒唐無稽で真面目な可能性についての考察
横たわる大男の話は端的に説明するとこうだ。
スバテラに向かうべく馬車に乗っていたら急に御者がいなくなり、不意に襲撃を受けてあっという間に同乗していた連中が制圧されたと。
そして、襲ってきた相手は確実に人間ではない何かだったと言っていた。
最初は植物の化け物。殴り砕いている内に罠にかかり、最後には人に化けて騙そうとしてきたという話だった。
人に化けたそれの首を一度は握りつぶしたが、骨は無く、そのまま話し続けたという話だった。
『新しい進んだ新時代の人の形』と宣うそれは、自分に何かを飲ませ、それから先は夢現。
今になって考えてみれば魔力を吸われ、自分は寄生されていいように操られていたのだろう……という話だった。
話にならん。情報が無い。取れるものがない。
これの出所は解らず、目の前のこれから絞り出せる情報も無い。
頼みの綱の回収した木の塊はどうかと開けてみたところ、H.P.の中で見事に塵になっていた。塵を調べるという事になったが、期待は出来ない。
あの寄生生物が町のあちこちからワラワラ出て来た日にはシェリー君もこの村も詰む。
だが、ここで簡単に頭を抱えるほどこの一団はヤワではない。
自称そこそこ天才が手を挙げた。
「一つ質問があります。
魔力を吸い取る性質、そして寄生して動かしているように見えたと……マスクリン=ハチード様、でよろしかったですね?」
寝かしつけられている大男を見て商人が問う。
「マスクリンで構わない。無力な私にできる質問ならばいくらでも答えよう。」
「この塵になった植物があなた付いていた間の記憶はどの程度ありますか?
これが手足だった頃の、6本腕に6本足だったころの、動かしていた記憶があるでしょうか?」
それに対して大男は沈黙し、考えている。
「いや、あれは……うぅむ……。妙な悪夢を見ていた様な気分だったが、自分の手足が千切り取られて別の何かが動かしている様に感じられた。
そして、そちらの、お嬢さんが助けて下さった事を覚えている。」
「君の体を念のため調べさせてもらった。血液検査の結果、薬物の類は出なかった。何かの魔道具を取り付けた痕跡も体表には無い。薬物の類による幻覚ではなさそうだ………。」
「話の腰を折って申し訳ありません。六本腕で六本足の生き物を薬物や魔道具で作れる可能性はあったのですか?」
商人が遠慮がちに手を挙げた。
「ある。術式と薬物の混合で肉体そのものの形を変えたり人間と魔道具を一体化したりする研究は一定以上やられている。
勿論、倫理に反することだからやっている事を表向きに言っている間抜けはいないが……な。」
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