誠意を受け取った。
肥料兼動く鉢植えにされていた。
そこから解放するために心臓を一度停止させられた。
そして蘇生するためにシェリー君の『電撃』を心臓に何度も喰らった。
身体強化込みで心臓マッサージもしたので当然肋骨は折れている。
病院のベッドで絶対安静状態に在るべき男は今、少しハリの無い声で重い体を上げ、感謝を述べ、シェリー君の前に跪いた。
「止めてください。私はそのようにお礼をされる資格はありません。」
重症の男をなんとかなだめて座らせようとする。だがシェリー君もシェリー君で相当消耗しているせいで止められない。
植物とやりあっている間に使った魔法は『火』四発。それに最低限の『身体強化』。正直あの弱さ相手故に当然消耗は少なかった。
が、その後でこの男を治療するために非常に消耗した。
『電撃』で心臓にショックを与え、『身体強化』込みの心臓マッサージ。
本来致死性攻撃か制圧用にしか使わない『電撃』の出力を調整して、身体強化で心臓マッサージをし続ける。心臓マッサージというのは非常に疲れるもので、本来は数人が交替してリレー方式でやるようなものだ。
屋根上という隔絶空間。助けを呼ぼうにもこの男は植物を抜きにしてなお招かれざる客。何より下に落ちたアレを目撃されるとこれから先にやろうとしている事全てが水泡に帰す可能性がある。
当然、人なんて呼べなかった。助力は無かった。だから、一人必死でこの大男を死の淵から引っ張り上げた。
間接的とはいえ自分を殺そうとしていた人を、だ。
「本来ならば称賛と拍手喝采を浴びても文句は無い。人徳者過ぎると顔を顰める輩も一定数湧くことになるが、それでもこれは後ろ暗い行動ではない。胸を張って誇っても何の問題も無い。」
『けれど肥料としての価値を喪わせ、鉢植えを叩き割るためとはいえ心臓を一度止めたことは変わらない事実です。
けれど心臓を動かすためとはいえ電撃を流し、肋骨を折ったことは事実です。そもそも、心臓を止めたのは私です。
これをどう誇れと言うのですか?』
というわけだ。
嘘や謙虚の美徳によるものではなく、単純に自分がそうだと確信している。そう思う事が当然だと考えている。
「過程はどうあれ、貴女は私を悪夢から解放して下さった。それは紛れもない事実……なのでしょう。
貴女がこうして動かなければ、私は今も囚われていたのです。
厚かましいことではありますが、どうか、この私めに命の恩人に御礼を申し上げる機会を頂きたい。」
シェリー君は誠意を以って人に向かう。
男は誠意を示した。
誠意のぶつかり合い?そんな馬鹿なことはない。
シェリー君は示された誠意を無下にはできない。
「私の……名前は、シェリー=モリアーティーです。」
シェリー君が誠意を受け取った。
人工呼吸は止めておきました。多分相手が無事じゃ済まない……ので。
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