騎士として礼を重んじる程度の義
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それをたとえるなら、『溺れた人間が水面に顔を出した時に最初にする息の音』だった。
「!」
そんな音が聞こえて跳ね起きた。
そして、息を呑む音が自分から発せられたこと、音を聞く耳が未だ有ること、跳ね起きられる命が未だ手元にあること、胸の痛みに厭な汗が全身を濡らしていることに気付くまでに少し時間がかかった。
「気付いたのですね!良かった、本当に良かった!」
鈴の様な声が聞こえて、震えて氷の様に冷たくなった何かが両手を掴んだ。
小さな、華奢な手。震える小さな両手が自分の大きな手を強く握っていた。
「痛みは……肋骨を折ってしまったのですから当然ありますよね。手足の動きに違和感はありますか?言葉はちゃんと伝わっていますか?耳と目は聞こえていますか?」
恐怖によって気圧される事は先ず無い。だが、目の前にいるのは強気ではなく、高圧的でもない単純明快にひた向きで懸命な少女だったお陰で少しだけ気圧された。
「っ……いきなり幾つもの事を訊いて申し訳ありません!」
誰かに注意でもされたように急にハッとなって頭を下げる。
「いや、問題ない。手足と胸が少し痛むが十分動く。耳も目も鼻も利くし、貴女が何を仰っているかは解っているつもりだ。」
「そう……そうですか。良かった。本当に、よかった…………」
安堵で腰が抜けたようにその場に座り込んだ。
……そう言えばここはどこだ?どこかの建物の屋根の上?そう言えば、今まで何をしていた?
「どうかしたのですか?」
少女がこちらの考えを察した様に覗き込む。
華美さは無い。化粧もしていない。装飾も無い。だが整った顔とその目はとても美しいものだと思った。
目。今は安堵で細められているその目。
ああそうだ、思い出した。この目は、あの悪夢で見たものだった。
怪物に手足を奪われた時に立ち向かって『あなたを助けます。』と言っていたあの目だ、そしてあの声だった。
『ごめんなさい。貴方は絶対に助けます、だから今は!』と言って自分の胸を打った、あの半分泣いていた目だ。
そうだ、あのどうしようもない悪夢の中で唯一安らぎと輝きを帯びていたあの少女だ。
「やはりあれは、悪夢じゃなかったのか…………」
夢だと信じたいあまり現実から目を背けようとしたがそうもいかなかった。
よく見ると屋根裏のあちこちに朽ち木の破片が散らばっている。風が運んだ?そんな訳がない。
そうか、そういうことか。
「どうか、貴女のお名前を教えては頂けないか?」
どうにかして混乱する頭と重い体を全力で使って出てきた答えはそれだった。
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