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博愛主義は合理的


 焔炎の中、それは消えていった。

 その最期の様を誰も見ていない。あの光と衝撃波の中ではそもそも見えはしない。

 灰と熱が残る中で辛うじて残ったものは29の(わざわい)の種子と芽吹いたもの1つ。それはとうに枯れている。それ以外は封印されている、これ以上あの厄介な怪物を相手にすることはない……筈だった。

 全身が浮き上がった大男は背中から生えた不格好な足に支えられていた。

 巨体を支える足だ。さぞ筋肉に満ち満ちたもの……ではなかった。

 樹木の枝が蜷局(とぐろ)を巻いて4本の太い足を形成し、限られた屋根上で巨体を支えていた。


 見覚えがあった。

 無謀な若者はシェリー君の相手にならず、老医師は掌の上で踊らされた。

 そんな中、あのアスラルという樹木はこの村で散々シェリー君の命を脅かした存在だった。

 そして、それが諸悪の根源となって今もシェリー君の心に毒針として突き刺さっている。

 「あの灼熱を生き残った?そもそも2つあった?それとも種子は30個以上あった?どれが正解であったとしても脅威にしかなりません……。

 いいえ、この場で考えていても仕方ありません。あれの正体を見極める前に、あの人を助けないと!」

 そう言いながら再度構え直す。

 シェリー君は尾行の最中背姿しか見ていなかった。今やっと、大男と正面からまともに向き合っているわけだが……目がこちらを向いていない。虚ろなのだ。

 動き自体は確実にこちらを捉えるもの。だが、行動に際して体の動きと眼球が連動している様子がない。

 あの体が樹木で出来た代物ではないことは縛り上げたときの感覚で解っている、あれは生身だ。

 だが背中のあれは当然生身ではない。活きの良い生身の肉体を調達して、それに種子を植え付けたという形だ。

 例の種子を初めて見つけた時、不用意に孫娘が手を触れて苗床になりかけたあの時と似た状態と考えてよい。

 となると、あれが寄生されてどの程度の時間経っているかが問題だ。

 孫娘は吸い取り殺されかけた。あの短時間で虫の息。

 屈強な肉体の持ち主がどの程度持つか実験していないので確かな事は言えないが、シェリー君の望みを叶えたいのなら一刻も早く引き剥がす事を推奨する。

 「何処のどちら様かは知らないが、まあ助けるのだろう?」

 「勿論です。それに、ここで情報が手に入ればあの植物に対抗する策も見つかります。

 我々は対峙し、退治しましたが、あの植物のルーツを知りません。彼がどういった経緯でああなったのかを知ればこれからの動きのヒントになります。

 情報は武器、でしたよね?」

 情報を取りたいのなら、話せる状態にした方が良い。そういう意味では博愛主義は合理的だ。


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