短い出会いを
邪魔はいつでもどこでもやって来る。特に一番厭なタイミングでやって来る。
これは実際のところ違う。邪魔は幸福な時にもやって来て、不幸な時にもやって来る。何のことはない、どちらにしろ人にとって一番厭なタイミングという、それだけの話だ。
黒いグラスをかけて斜に構えたどう見ても商人とは思えない輩が道の向こうからやってきて不審者に掴みかかった。
だが、その男が商人だという予想は後ろから血相を変えてやって来る商人を見れば簡単に出来る。
こちらは町で挙動不審なところを偶然見つけて尾行したが、あちらは町に来る人間を見る『目』が幾らもある。こちらの偶然よりも不審人物確率は高い、が、目だけでなく手も用意していない点は頂けなかった。
「実はな、知り合いの商人がさっき盗人の被害にあったと聞いたんじゃ。
ふてえ奴だ、締めてやろう!と思って探しとったんじゃ。その盗人の特徴は一人で筋肉質じゃったという話で、まぁ兄さんそっくりなんじゃ。
兄さんがそうなのか、違うのか、ちっとばかし盗まれた知り合いに面通しして確認したいんじゃが、構わんか?」
商人の交渉とは思えない猛々しいやり方。敢えてあれをやって相手の感情を逆撫でしてボロが出たところでそこから傷を広げていく……やり方としては幾つかある手法の一つとして考えられるが、あれの想定は荒くれのチンピラレベル。
そして、こちらの想定は先程のあの動きを見て真っ当な人間ではないと確信している。
さぁて、こちらの予想が外れていたらあの男は無事成功。
しかし、こちらの予想が当たったならあの男は無事死ぬ。
そして、こちらは背中側しか見えないが、男の右手の指が痙攣し、黒グラスの商人へと向かっていく。
どう考えても友好の証の握手やハイタッチをする気の手の形ではない。
「ッ……」
顔色は真っ青、表情は恐ろしいものを見たとばかりに硬直している。そんな状態で息を呑み……
『身体強化』『強度強化』
自称そこそこ天才謹製の魔法のローブ、W.W.W.は使えない。代わりにH.T.を足に纏い発条代わりに、跳んでいく。
本当なら穏便に森の方へ誘導して、誰にも見られないところで確認をしたかった。
けれど、今はそうしてもいられません。巨木の枝のような指先が顔に迫っているのですから。少なくとも、私の知る中に歓迎の握手を人の頭でやる文化圏は存在しません。
本当は人の頭を掴んだり撫でたりする友好の挨拶がどこかの国ではあって、私が今こうして止めようとしている行動は無意味で恥ずかしい勘違いなのかもしれません。
だとしたら、私はそうあってほしい。
けれど、ああダメです。背姿から見ても解ってしまう腕の力の入り方。到底握手をする人間の腕の筋肉の収縮ではありません。
ですので、少し荒っぽい……淑女とは言い難い手法で黒メガネの方とお別れをして頂きましょう。
いいねとブックマークありがとうございます。
シェリー君の地の文、実はそこまで得意ではないのですが、声が付くと途端にやりやすくなる事を最近発見いたしました。




