皮肉な拍手
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体が重い。怠い。動けと命じても、渾身の力で動こうとしても、動きがゆっくりと停止に近付いて、抵抗して動こうとしても結局最後には止まっている。
攻撃はすでに止んでいる。いつでも止めは刺せるとても言いたげだ。
勝ち誇って油断している相手に一撃入れてやろうという意志はあるが、拳を作るために指を動かす事さえ最早出来なくなっている。
せめて負けじと顔を上げて睨み付けようとするが、首さえ支えられなくなって、下を向いて、足腰が立たなくなって、地面が近付いて、そこでやっと……やっと自分達の敗因が解った。
見れば自分達が打ち砕いたものが足元に散らばっている。
本来、生き物の大本から切り離された末端は動く事はない、それは死んだ部分だ。たとえ動いたとて、捌かれた魚の切り身やトカゲの尻尾の様に取るに足らないもののはずだ。極めて稀なケースで切断されて半分になった二つがそれぞれ再生して、二つとも切断前の元の形になることもあるが、半分が完成された一つになるまでには長い時間がかかる。
間違っても、砕けた破片が血を啜るヒルの様に人の皮膚に貼り付き、脈打ち、それに呼応する様に徐々に肥大化して、こうして今見ている最中に形が変わって意味ある完成形に近づいていく様な、そんなものはない。存在しない。知らない。
緩慢な動きの指をやっとの思いで動かして、それに指を掛けて引き剥がそうとするが、喰らい付いて離れない。どころか先程よりも深く強く喰らい付き、その強さに比例するように体の力が抜け落ちていく、そうしている間に破片が上から雨の様に降ってきて、どんどん肉体に喰らい付く数が増えていく。体に食らい付く数が増えるほど、体から致命的な何かが奪われていく。
もう、こんなちっぽけなものを引き剥がす力さえ、指を掛ける力さえ無くなった。
今になって御者席から異常のサインが無かった理由が解った。この群れが急に降ってきたのなら、たとえ異常に気付けたとしてもその時には既に足を鳴らす力は残っていまい…………。
もう戦うために再起する事は出来ない。
『パチン』
何かが弾ける音がする。
這うことも難しい。
『パチン』
また、同じような音がする。
感覚も鈍り始めた手先で何かが動く感覚が辛うじてあった。
『パチン』『パチン』『パチン』『パチン』『パチン』『パチン』パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ………………この場に似つかわしくない拍手の音が聞こえ始めた。




