嘘を吐かない正直者の苦悩
本日二話目。投稿理由は簡単です。興が乗ったから。
虚構の高位貴族が契約締結した事実によって、契約は締結する意味のあるものだと考え出す。
自分が軽率に激昂した事を後悔して、どうにかして商談を振り出しに戻す方法を模索する。
そうなったところでこちらから相手の体調不良を心配して商談を一からやり直すように提案すれば、もう餌に喰い付いた魚だ。
あとは、商人が個人的に呼んだ二人のお友達を見せれば、この契約に何が隠されているか解らずとも利益のある有意義な代物だと、背中を押せる。
我々は誠意ある対応をしっかりとした。嘘も吐いていない。善良な一般市民の模範と言っても過言ではない
「一体これらのどこが悪いのかね?
ガワに少しだけ細工をした馬車で夜のドライブをして来客とすれ違い、応接室にコーヒーと葉巻の香りを漂わせ、客人を宿屋まで案内する時にそのルート上で丁度偶然予想外な事に商人の友人と出くわすように仕向けただけだろう?
どれもこれも私の犯行を裏付けるものではない。」
自信たっぷりに言って見せる。実際、私の行動全てに犯罪的要素は無い。
「……教授。悪いことをしているしていない以前に、教授はご自分の表情を鏡でご覧になった方がよろしいかと。」
頭が痛いとばかりにこちらに冷たい視線を送るシェリー君。嗚呼悲しき哉。
「生憎、今の私の姿は鏡で捉えられない。
それがまったくもって残念でならない。
鏡面に私の姿が映ったのであれば、さぞ模範的な小市民の姿でそこにいたことだろうさ!」
朗々と歌って見せる。
「生憎と、今の私には絵心が無いので教授の姿をキャンバスに捉える事が出来ません。
それがまったくもって残念でなりません。
私が教授を捉える事が出来たのであれば、そこにいるのが立件困難な稀代の詐欺師だと皆様に警告することができたというのに。」
淡々とそう言ってこちらを見やる。
「そう怒ることはないだろう。何度も言っているがこのお話に違法性は全く無い。嘘も無い。邪悪な謀もない。
これは、言うなれば素直に買ってくれそうも無い相手が買いやすいように親切に条件を整えただけのこと。
販売促進の広告や噂を流す事と本質は変わらない。」
「道徳・倫理的に問題が無いとは言えません。嘘を吐いていないだけで騙す心算はあったのですから……。」
そこにあるのは僅かな罪悪。
「『嘘』と『騙す事』がいつだって邪悪であるとは思わないことだ。
『真実』と『信じる事』がいつだって正義であるとは思わないことだ。
偽の薬が病を癒せば、それは真の薬となんら変わらない。
今回、我々は確かに策を弄して奴を誘導した。一見すると、とんでもなく不平等な契約を結ばせたように見える。
だが、君は知っている。この契約は不平等でも何でもない。どころか、今あの額で買えた事は幸運と言える。そうだろう?」
「それは…………」
反撃が途絶えた。
確かに、やり口を見れば悪意に満ちているが、本件はこちらにとっても、ゲッチボーンにとっても有益なものになる。
「兎に角、やってしまった以上、君に出来る罪滅ぼし、あるいは誠意を見せる事は、契約者に対して最大級の利益をもたらすことだけだ。
さぁ、最功労者たる馬車の美術スタッフ達に礼を言う時間くらいはあるが、我々は次の手を打つ必要がある。時は金なりだ。」
「はい……」
先程見ていたテレビに、本作のアニメOPを歌う七海うららさんが出ていたんですよ。
合唱バトルやっていたんですけれど、優勝されていましたよ。おめでとうございます。




