友人の登場
ブルンは手紙を読むな否や同封されていたガスを躊躇いなく炉に放り込んで火の色と炉の様子を見ることにした。
常に高温に曝されているブルンの炉達はその全てが頑丈で耐熱性に優れている。炉ならば当然と言えば当然だが、彼を敵視した鍛冶職人崩れが嫌がらせで炉の中に爆弾を入れた時、爆発で一切傷付かなかったと言えばその強度は解るだろう。
一番小さな炉にそれを投げ入れ、蓋をしたところ、安全装置が働いて停止した。蓋はと言えば変形して使い物にならなくなった。
そして、ブルンはそれが燃えた時に、今まで見たことのない火の色を見た。
今まで目が焼け付くほど火を見てきた炉主が見た事の無い火。商人が送りつけてきたものがただものでは無いと理解するには十分で、とんでもない事に首を突っ込んでいると予感するには十二分で、直ぐ駆けつける理由としてこれ以上ないものだった。
「失礼、考えなしの発言ではありませんでしたか……こちらも似たような調子です。
貴方のその発言が適当に口にしたものあって欲しかった。」
アルケは頭を抱えつつ頭を下げてため息を吐いた。こちらも当然、中身がただの燃焼性のガスではないと思い、手製の最新式解析用の魔道具で調べた、徹底的に。
学術都市アルケイオンの魔法、科学の文献データベースにかけて照合したが、類似性のあるものさえ見つからなかった。
アルケイオンのデータベースは既知の学術情報が収束する場所。発見者が隠しているか人類未発見のものでもない限りは検索してヒットしないことは先ず無いと言っても良い代物だ。
勿論、閲覧や検索に際して権限は必要になってくるが、上級博士ともなれば殆どの情報に申請無しでアクセスが可能。それなのに、ヒットはしなかった。
どころか、上級博士でさえ申請が必要な特殊データベースにも無かった。
ここでアルケは商人が自分を招待した理由について、仮説を二つ立てた。
一つ目は、商人が未知の発見をして、それの解析を自分にしてもらうべく連絡をした。ということ。アルケイオンにヒットしなくてもそれならば不思議ではない。
二つ目は、商人が知ってか知らずか秘されていた代物を発見してしまい、どうにもならなくなりそう、あるいはどう処理して良いかわからない状況にあるということ。それならば、連絡は取れるが危機的状況が迫っていることになる。
使える最速の手段でここまでやって来た。
「矢張りそうでしたか。」
商人は二人の目を信じていた。
「そういうことでしたか。」
不安はあったが、博士はこの男がどこまで行っても商人であることを捨て切れない男だと確証があった。安堵した。
「やっぱり調べるために送ったな。」
炉主は、念の為錬鉄製の槌を持ってきたが、この男が友人を呼ぶときついでに商売もやるような、危機的な状況でも命と利益を総取りするような抜け目の無い男だと信じていた。
「失礼いたしました。しかし、招待状に書かれた事は事実です。というより、招待状以上の事をご紹介したくお呼びいたしました。」
「「なるほど。」」
三人が笑った。




