商人のお友達
「お二人とも、ようこそお越し下さいました。」
商人が丁寧にお辞儀をする。
「いいえ、こちらこそありがとうございます。」
白衣の男はお辞儀に45°のお辞儀で返す。
「おぅ、気にするな。」
大きく鍛えられた手で下げられた背中を叩く。
商人によって部屋に招かれた上級博士と炉主の様子は、商談相手というよりはむしろ長年の親しい友人と集まった時の様だった。笑いあっていた。
「転職の連絡が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。」
商人がコーヒーを三人分用意して椅子に座るように促す。
「あのような劣悪な職場、辞めて正解です。その方が無駄は無いです。
しかし、辞めたのでしたらアルケイオンの門を叩いて欲しかった。今進めている悪海浄化実験計画を貴方にも手伝って欲しかった…………残念でなりません。」
「今からでも遅くない。ウチに来い。
お前がいれば基礎から屋根まで全部が錬鉄で出来た都市を作る事だって出来る。見たいだろ、ギラギラの錬鉄で出来たガッチガッチ最高の都市をな!」
二人はサイクズル商会時代からのイタバッサの知り合い、旧友というものだった。
「お二人ともありがとうございます。しかしご存じの通り、私はモラン商会のイタバッサになりました。
申し訳ありませんが、お二人とも、どうか今まで通りの我々で、お願いできればと。
ただ、モラン商会のイタバッサは、お二人の夢のお手伝いに手を貸す事を吝かではないと思っています。
ぜひ、お手伝いをさせていただければと。」
商人が浮かべていた表情は苦笑いの様にも見えるが、旧友二人には嬉しそうな表情に映っていた。
「なら、仕方ありません。貴方には特別協力者として共に栄誉を手にしていただくことといたしましょう。」
「今まで通りって言っても、今度は小まめに連絡寄越せよ。
で、錬鉄都市が出来たらその時は手前に一等地のド真ん中、一番デカくて一番頑丈で一番イカす建物で一番に店を出させてやる。準備しておけよ」
二人はその嬉しそうな表情に笑顔で返した。
「お二人のお心遣いに感謝を。ありがとうございます。」
再度頭を下げた商人の両肩を軽く叩く。
「「礼なら結果で寄越しな。それが君のやり方だろう?」」
そんなこんなで椅子に座り、コーヒーを飲みながら三人は話し出す。
「手紙に入っていたありゃぁ……なんだ?」
口火を切ったのは炉主のブルンだった。
「貴方は手紙を読まなかったのですか?」
上級博士のアルケは呆れた目を向ける。
「読んだ。読んだしあれを燃やした時の火を見た上で言っているんだよ。俺はあんなものを見たことがない。」
評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。
連続投稿目指してノロノロ執筆中です。




