ジーニアス=インベンターのガス器具安全使用講座
キーンコーンカーンコーン
懐から取り出した笛からベルの音がなぜか響いた。
「何それ面白そう。私にも見せて。」
顔に赤みが戻った孫娘が机に座ってそう呟いた。
「静粛に。
ただいまより、『ジーニアス=インベンターのガス器具安全使用講座』を始めます。
今回講師を務めるジーニアス=インベンターです。」
隣に立つ自称そこそこ天才がこちらに目を向けた。
「助手を務めさせていただきますシェリー=モリアーティーです。皆様よろしくお願い致します。」
頭を下げる。とはいっても、この場にいる受講者は2人だけ。
「こちらこそ、よろしくお願い致します。」
1人は診療所を仮住まいとして使っている記憶喪失の男、トッド。
こちらは診療所から筆記用具を持ってきていた。
「今皆が使ってる火のやつでしょ?薪とか枝とか燃やして使ってるし、今更必要?」
もう1人は例の種子に吸い殺されかけた村長の孫娘。
こちらは机の上に顎をのせていた。
「オーイ、君は減点だ。
あれを薪や枝と一緒にするな。
本質は魚と牛くらいは違うぞ。」
「え、そうなの?」
シェリー君がそれに答える。
「はい。今回あちらの……仮称スバテラ町に導入したガス燈、コンロ、暖房器具の動力は薪や枝といった固形燃料ではなくガス……火をつけると燃える気体です。」
「なにそれ?え?そんな怖いものがあるの?」
知っていれば可燃性のガスは珍しくもなんともない。だが、隔離された村ではそんなものを知る機会は無い。
実際には目の前、物理的には村の真下にあった訳だが、誰もそれを知らなかった。燃える気体。確かに知らなければ恐怖だな。
自分の周辺にある空気が燃えたら、風と共に炎が襲い掛かってきたら、焼け爛れて肺が燃えたら、そうやって考えると恐怖だ。
「勿論、危険性はある。だが便利なものは必ず危険性を伴う。例えばよく切れるナイフ。料理や工作に使う時には便利だが、うっかり手を滑らせると怪我の原因になる。
この燃焼性のガスは扱いを間違えば火事や爆発事故、中毒の原因になり得るが、安全性を確保し、注意して使えば薪より軽く、灰も残さずに燃えてくれる燃料になる。何より、導線を作れば各家庭に人をやらずに燃料を自動で運べる。
君が使っていたこの家の性能はそのガスを用いて動かしていたが、あれは中々便利だっただろう?」
「む……そりゃぁ、滅茶苦茶便利だけど……。」
「君の不安も解る。ナイフは切れれば切れるほど危ない。だから我々発明家は安全を確保するためにナイフの鞘を作るんだ。
だから我々は今、君にナイフの使い方を教えるんだ。」
改めて、本作のライトアニメ化です!よろしくお願いします。




