知っている理由は勿論……
木箱の中には茶葉、香木、金のインゴット、ぬいぐるみ、岩塩……
木材の山が多数。食料品に酒、衣服、書物に宝石と倉庫には未だ広がっている。
「……………」
全てを確認する事を前提としているように素早く見て回っている。私達が走って追い駆ける速さで歩いているのにも関わらず周辺のものを事細かに見て確認している。
「茶葉は……国産の高地のものですね。香りが良く、今年は豊作と聞いています。防湿の魔法もこれなら何もせずとも数か月は維持出来るでしょう。
こちらの香木は、他国からの輸入品ですね。検疫の証明印も施されている。
金のインゴット、これは最新の旧式ベースに新式の利点部分のみを加えた混合術式による刻印がされているので偽物の可能性は低いですね。」
淡々と見て回る。それを見ていたシルチュは我慢できずに主に言った。
「あちらの御方は……どこかの大商会の会長様か何かで?」
「違う、私のところの学園長。さっきそう名乗っていたでしょう?」
「では、茶葉の産地を見ただけで当てて、検閲証明やインゴットの証明術式を起動して読み取っているのは何故でしょう?
あちらの御方が仰っている事は全て当たっています。
あの茶葉は知り合いの伝手でやっと手に入れた最高級品で、確かに山奥で採れたものです。
香木もきっちり検疫を済ませてあります。金のインゴットは一度メッキを掴まされて酷い目に遭ったので徹底して偽物が入らないように信頼できる筋から手に入れています。
けれど、それは素人が一目見て分かるはずなんてないんです。
茶葉はある程度詳しい方ならば一目で見抜けるでしょう。とはいっても、それだって相当な目利きです。
香木は種類を見れば輸入品と分かるでしょうが、検疫の証明印は普段はお客様に見えないようになっていて、我々のような一部の商売人が起動の仕方を知っているような代物。
そして、金のインゴットの偽造防止用の術式に至ってはあぁ、そうだ。あの新式はダメだった。新しくなった使い易くなったとなって喜んでいたらくそったれ連中も偽物を作りやすくなっちまって、それで元の旧式の方が使い辛いが偽物が少なくてマシだってなって、それに新式の使い易さを混ぜて、前よりちょっとだけ使いやすくなったんだ。
でもそれだって知る訳がないんだ。その方式になったのはつい最近。商人だって使い慣れちゃいない。それをなんだってあんな自分家の台所で料理する母ちゃんみたいに扱ってんだ?ありゃぁ、何だってんだ?」
狼狽が表情だけでなく言葉遣いにまで、現れ始めた。
「私だって知らない。なんであんな風に色々知っているのか、出来るのか、分かっていたらあんな学園で苦労なんてしないわ。」
二人は知らない、かの淑女の努力を。
二人は知らない。淑女が教え子からその年最高級の茶葉を『味見にどうぞ』と一缶貰っている事を。
二人は知らない。香木の検疫を施した人間は淑女に教わり今の仕事に就いている事を。
二人は知らない。偽造防止の術式の基礎理論は彼女の作成したものだと。
二人は知らない。淑女は二人を疑ってはいない。
この人、コネが凄いんです。その道の泰斗を教えている場合が多いので……。
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