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アナンダ=クーロンと金鉱山3


 「その書類の正体は古紙屋謹製の偽造書類です。

 大量の紙をある程度風化や劣化するような環境に置き、本当の古い紙を用意し、それを綴じ合わせて本物の古書や歴史ある書物として似せて作り、貴女のような人々の目を欺く。裏社会ではよく行われている、ありきたりな偽物作りの手法ですよ。」

 目の前の淑女は様子を見に来てすぐさま癇癪を起こした淑女とは言い難い少女の喚きを静かにさせて(・・・・・・)、理論整然とした説明を聞き、そう答えを出した。

 「そんなはずありません。あれは確かに50年前の紙でした。最近の代物ではありません!絶対に!」

 「貴女の言う通り、それは正真正銘50年前の古紙なのですよ。

 何か書類を書くのに相応しい、作られたばかりのどこにでも売っているありふれた大量の紙をある程度風化や劣化するような環境で保管しておいたのです、50年前に。

 そして、同じく古いインクを使ってもっともらしい商会の経歴を書き込んでしまえば、50年前には存在していた書類の出来上がりです。

 着眼点は及第点ですが、自分だけがそれに着目しているという(おご)りや慢心はいただけません。

 あなたの知性は確かに評価に値するでしょう。しかし、それはあくまで書物や自分の周辺の経験則から獲得したものです。

 たとえ貴女が自分の見てきたもの全てを熟知していたとしても、世界は広く、貴女が全く見ていない未知のものがあると知りなさい。」

 鋭い眼光と真っ直ぐだけで構成された姿勢。アナンダ=クーロンの癇癪に対しては鞭という形で折檻をしたが、別に怒っている訳ではない。

 「そんな、そんな、なんで、わたし、だって、うまく、そんな、ばかな、」

 音信不通のミカツ=ペラー、どこをどう探しても見つからないツクモシシ商会の痕跡、そしてあまりにも軽率だった自分を省みて、項垂れてうわ言を呟く。

 「未知に油断せず、その上で未知を恐れず前を向いて進みなさい。

 貴女のその知性はその未知に踏み出す時にこそ、武器になります。そして、その武器は未知を得て、更なる鋭さと強さを獲得するでしょう。」

 それに……と目の前の淑女は加える。

 「貴女の課題は未だ終わっていません。ここで項垂れ泣き言を言っている暇はあるのですか?」

 自分の世界に閉じ籠ろうとする少女の顎を指で持ち上げ、前を向かせる。

 「立ち止まり、項垂れ、泣き言を言う者を淑女とは呼びません。

 私はこう言いました。『淑女を、示しなさい』と。

 確かに、今までの貴女はその知性を扱い切れませんでした。財も失ったのでしょう。

 しかし、未だ時間と知性は残っています。それらが尽きるまで、貴女のあるべき淑女を証明するために進みなさい。」

 優しい言葉では決して無かった。

 騙され尊厳を踏み躙られて失ったものが多い相手に対して容赦なんて欠片もなくて、未だ進めと命じる様に、そう言った。

 だがしかし、アナンダ=クーロンの残った誇りに火を点ける言葉としては最高のものだった。

 「言われずとも、やって御覧にいれましょう。

 クーロン家の知性を、いいえ、この私、アナンダ=クーロンの知性は、淑女は、この程度では屈することはありません。

 私の知性をもってすれば、この程度、些細なアクシデントで終わらせて、この件有終の美で終わらせてみせます。」

 泣き腫れた眼。その奥は燃え、世間知らずの箱入り娘ながら、鋭く、何かを成す決意に満ちていた。

 「課題の結果に関して、本件を言い訳にすることは許しません。

 では、私はこれで、ごきげんよう。」

 そう言って、淑女はもう用は済んだとばかりにデスクアップ商会を後にした。



 その後。



 《中央通りカフェにて》

 優雅にお茶を飲む一人の淑女がいた。

 彼女はテーブルの上にある呼出鈴を鳴らして店員に一つ、奇妙なことを聞いた。

 「一つ、訊ねたいことがあります。最近この店から去った方、あるいは最近この店で短期間働いた方はいるでしょうか?」


 その後


 ある日、とある町の警備官が爆発音と炸裂する音を聞いた。

 音の発生源へと駆け付けた彼が見たものは、バラバラに切り刻まれた凶器と、その中心でボロボロの状態になった詐欺師の集団だった。

 ちなみに、警備官はその集団を直ぐに詐欺師だと断定したのだが、なぜそんな事が分かったのかと言えば、全員の今までの罪状が詳細に記された書類が彼・彼女らに添付されていたからである。

 詐欺師達は意識を取り戻した後、こう言っていた。

 「むちが、むちが、むちが……」

 悪夢に苛まれた事は言うまでもない。



 反射的に書いていました。


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