アナンダ=クーロンと金鉱山1
スバテラ村に居るシェリー=モリアーティーは知る術を持ち合わせていなかった。
そして、ジェームズ=モリアーティーの予想は見事的中していた。
「ちょっと!これはどういうことですか?」
アールブルー学園所属。アナンダ=クーロンは怒りを露わにして渡された紙ごと机を叩いた。
「はい、ですから、ご命令された通りの場所に向かい、『ツクモシシ商会』を訪ねました。
しかしそのような名の商会は見当たらず、周辺住民に訊いたものの『心当たりは無い』と言われました。範囲を広げて周辺の町にも聞き込みをしましたが皆声を揃えて『そのような商会は存在しない』と言われました。」
「そんな訳ありません!私は一週間前の夕刻、この町の中央通りのカフェでツクモシシ 商会のミカツ=ペラーという女性と会って、金鉱山二つを購入したのです。取引をしたのです。それは確かです。絶対に!」
アナンダ=クーロンが怒っている理由。それは一週間前に行った鉱山売買の商談以降、『二日後また来る』と言っていた相手から連絡が来ず、人をやって調べさせたところ商談相手が存在しないと言われたから。
そういう話だ。
《一週間前、中央通りカフェにて》
商談相手はツクモシシ商会。
そこは代々貴金属や魔石が埋蔵された鉱山の売買や運営、そしてそこで使われる道具や労働力を流通させることを生業としている家で、今回手に入った鉱山は金が大量に採れるという話だった。
「しかし、我々ツクモシシ商会は既に持っている鉱山の運営で手一杯。手に入れたは良いものの、肝心の採掘までは手が回りません。
しかし、後で採掘しようなどと考えこのまま呑気に遊ばせておくと、金の匂いを嗅ぎ付けた不届きな輩が勝手に掘り出さないとも限りません。
そうなれば我々の手に残るのは掘り返された岩の残骸のみ。
そこで我々は金鉱山を売ることにいたしました。そこで、貴女様にご連絡を差し上げた次第です。」
話が旨過ぎた。どこの誰が金鉱山を買い過ぎたからと小娘に売りつける?金鉱山を売るべき相手なら他にいくらでもいる。
注文したお茶で唇を湿らせて、一度目を瞑って、毅然とした態度を見せる。
「そんな話を信じると思いますか?私は確かに未熟な小娘に見えるでしょう。しかし、私とて金鉱山の価値がわからない間抜けではありません。」
アナンダ=クーロン、彼女は数多くの学者を輩出してきた名門クーロン家の現当主の娘であり、その才覚は非常に高いものとして期待されていた。
実際、彼女は物心ついた頃から学術書を読み漁り、知性の聖殿とまで呼ばれるクーロン家の人々から知識を授かり、アールブルー学園でもその知性は高く評価されていた。
彼女は間違いなく聡明だ。彼女の知性は刃であり盾だ。彼女を騙す事はその知性の刃を砕くか躱すかして、知性の盾を貫くかあるいは躱さねばならない。
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