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『極大複合エネルギー増幅魔法術式』
三次元に編んだ術式を球体内で循環させるという点は愉快だ。今度試してみるのも一興だ。
『レスピラティオ=ヴィレスバテライセクトム』
生物の持つ特性をシステムの一部に組み込めるというのは実現すれば長期的な運用に際して『長所』足り得る。
『疑似太陽内で風を利用して、ギアを回転させ、それを地上に伝える』
ロスは多い。が、遮蔽物のない空に視野を広げる事で以後の事象に対しての拡張性が生まれた。
あれば役に立つ愉快なもの達。
しかし、これらの愉快なものは当然存在しない。
この町の動力源は地上に流出していたガス……例の地下施設由来のものだ。そして運んでいるのは
正直にアレを白日の元に曝すのは拙い。だが、出し惜しみをしてスバテラ村はどうにか出来るほど甘くはない。
だから、それらしい物語とそれらしい光景、それらしい台詞に演出をいくつも用意した。
正真正銘の虚構話が本当にそこにあって、町を成り立たせているように。それが真実に見えるように。見栄えの良い劇の脚本とそれを演じるに相応しい舞台を用意した。
「それでは、おたのしみくださいぃ。」
見学ツアーの案内人、モリアさんがそう言って案内していたのは疑似太陽やこの町のインフラの基幹部分の一部……ではなく、一定濃度のガス。この町の動力源が充満している地下室だった。
シェリー君は身を以て知っている通り、このガスは吸い込み過ぎると酸欠によって判断力の低下をもたらす。
健康に害が無い程度の濃度に調整されたそのガスを吸い込んだ10人の熱心な見学者は判断力を失う。
対して案内人モリアさんは気流操作で対処。冷静な判断力と変装を維持したまま、あの説明が始まる。
「極大複合エネルギー増幅魔法術式。それが疑似太陽を、この町を支える根幹になっていますぅ。
単体でも十二分に複雑な術式を三次元的に編んでそれを球体内部に付与して循環させるというあまりにも独自の手法を使っていたがゆえにこれの製作者さえも同じものを作ることはおろか似たものを作ることは不可能と断じ、繊細な術式と設備ゆえに移動させることも出来ないという代物ですぅ。
素晴らしいでしょう?」
ガスは人々の判断力を奪ったまま。
地下室の壁は自称そこそこ天才に依頼して『家』の光学迷彩と同じ機能を持たせてある。
要は、『幻燈』程ではないがそこにはない物を見せることが出来る。
だからプラネタリウムに未知の魔法術式を描くことが出来た。
だから空の球体の内側に新種の虫を発生させることが出来た。
だから二本のワイヤーと魔力生成装置を見せることが出来た。
判断力は奪われ、それなりの映像を見せた。
10人が10人とも同じ存在しない機構を見せられた。10人の証言は同じ。それだけならこの嘘は真実として信じられる。
しかし、複数人が情報を統合した場合や矛盾した噂話が広まった場合、話は別だ。
そうなればこの町の真実はわからなくなる。
確認は、必要ではないかね?
面白半分であれ、真剣であれ、また来る必要は、一つできるだろう?
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