大人たちの見学ツアーは続く
腹を押さえた数人を一番後ろに配置して10人の行列は失敗巨大丸焼き装置の土台に迫っていった。
「当然ですがぁ、今はお肉を焼く事は出来ません。というかぁ、これで焼いたお肉ぅ、表面焦げて生煮えってぇ、お手本みたいな失敗作だったんですよねぇ……せめて蒸し焼き器にでもすれば良かったのにぃ……。
「喰ったのかよ……」
我慢できずに口走ったものがいた。
「これでは肉は焼けませんがぁ、けれどぉ、疑似太陽と同じ動力を利用したものならぁ、美味しくお肉は焼けるんですよぉ。ほら、あぁやってぇ。」
視線を横に向ける。その先には鶏を揚げている屋台。
屋台には薪はなく、しかし、鍋の下から高温の炎が噴き上がり、カラカラと軽やかな音と香ばしい香りがここまで漂ってきていた。
「次はぁ、この疑似太陽とあの火の源のところに行きますぅ。」
来た。
今まで茶番劇に付き合って胃に穴を空けたのはなんのためか?
この時のためだ。
その正体を見極める。そしてあわよくばそれ自体やその利権を手に入れるためだ。
「こちらよりぃ、どうぞぉ。」
近付くほどに光と熱が強くなる疑似太陽。その足下に来た。
石の階段を上り、太陽の真下を見下ろす。そこには球体を押し付けたような窪みがある。太陽の見かけが見かけなだけに小さなクレーターにも見える。日中はおそらくここに設置されるのであろう。
「『疑似太陽』は現在内部の自動制御機能でこの町の上空に浮いていますぅ。原理は、空気を熱して膨張させて、軽くなった空気で飛ぶ、いわゆる気球と同じ原理ですぅ。
浮かすときの熱エネルギーや今こうして照らすための熱エネルギーは日中明かりの必要が無い時にこの土台部分に降ろして確保していますぅ。
日中はエネルギー確保、夜間にそれを使って浮かし、熱と光を供給していますぅ。
周辺の街灯やコンロはエネルギー供給を常に行うことで常時使用可能にしてありますぅ。この町に住むならどの建物もコンロを使えますし、明かりもありますけれど、その分の代金は徴収されるので、悪しからずでお願いしますぅ。」
問題はここからだ。原理はどうでもいい。その原理を動かすエネルギーをどこから持って来るかが問題だ。
「さて、この町の明かりや火、そしてこの日を動かすエネルギーは町全体にどう運んでいるでしょうかぁ?そして、どうやって生み出されているでしょうかぁ?
さぁ、思いつく方はどうぞ、挙手でお願いしますぅ。早い者勝ちですよぅ。」
ここに来て胃がキリキリと痛む。過去というにはあまりに直近に起きたあの沈黙と無言のやりとりを思い出して参加者はこの陽気の中で背筋を凍らせる。
しかし、それも一瞬。前の質問よりもまっとうでその答えはとても役に立つ。大人が挙手をするモチベーションはあった。
参考:https://www.nhk.or.jp/kokokoza/basicscience/contents/resume/resume_0000003500.html
どうでもよいことですが、調べている途中で宇宙開発に使われる気球を見つけてどうにか作品に使えないかと迷っています。
そして、毎回いいね、ブクマ、ありがとうございます。




