疑似太陽特別見学ツアーにご参加いただき誠にありがとうございます
夜、明るい町の中心部に立場の違う人間が10人集まる。
「本日はぁ、疑似太陽特別見学ツアーにご参加いただき誠にありがとうございますぅ。
私ぃ、今回のツアーのガイド役を務めさせていただきますぅ、モリアと申しますぅ。
皆様の楽しいお時間のお手伝いが出来ればと思っていますぅ。」
皆、立場は違えどこのツアーに参加した理由は純粋で不純だ。
町の地面に走る石板の道をあてもなく追いかけてもどうにもならず、ヤケクソあるいは諦めでここにやってきた。
町はそこそこの規模だが大きな動力源を隠せる場所はここ以外に見当たらない。
機密の類を見られるとは思っていないが、そのヒントくらいなら掴めるだろう。
そんな淡い希望を胸に決して安くはない見学ツアー申込料を支払い、やたら項目の多い申込書を文句一つ言わずに記入したのだ。
「では、まずこの疑似太陽ですがぁ、魔道具職人のオランゾが設計したものですぅ。
しかしぃ、これはそもそも街灯や暖房器具ではなかったのですぅ。さぁ、元はどんなものだったでしょうかぁ?
こんなものだったぁ、あんなんじゃないかなぁ、というのを言ってみて下さいぃ。早いもの勝ち挙手ですぅ!さぁどうぞぉ」
矢鱈と気の抜けた、間延びした声で、疑似太陽前で話し始める薄笑いを浮かべた糸目の女が手を挙げて回答を促す。
他の9人も明らかにこちら側。当然まっとうに見学ツアーに参加する気はない。
挙手は、無い。
沈黙のまま、2つの糸目が10人に向けられる。しかも、薄笑いする顔は仮面か絵かと思うほど全く動かない。
周辺ではこの暖かさと明るさではしゃぐ声や酔っ払いの音痴っ外れな歌声が響く中、ここだけが沈黙を貫き通している。
『『『『『『『『『『誰か、早く答えろ!』』』』』』』』』』
周辺の明るさとは対照的にあまりにも重苦しい雰囲気が立ち込める中、敵対関係にあるであろう10人の考えは共鳴した。
そして、自分以外に答えさせようとしてガンを飛ばしあい、更に沈黙が続き、重苦しくなり、より挙げる手が重くなり……
「ハイ…………」
腕に岩でも括り付けた様な重々しい挙手と、秋を目前にして死にかけた蚊のような小声で一人が沈黙を破った。
「はいぃ、ではぁ、そちらの方ぁ。」
「えっと、イカ漁に使うための、あの、エサじゃなくて、あの、オトリってヤツじゃないかな、と。」
「あぁ、イカ漁ぅ。確かにぃ、これを使ったイカ漁は捗りそうですねぇ。でも、残念ですぅ。イカ漁じゃないんですぅ。
でも、その視点はもしかしたら近いかもしれないかもしれないですぅ。」
どっちだよ。
「じゃぁ、次の人ぉ、挙手ぅ。」
おいおいおいおいおいおい。この沈黙の後でやっと一人手を挙げたのにまだ続ける気か?正気か?
更に空気が重くなった。
ちなみに正解は。
「『より美味い肉はより大きい。そして最も美味く食べるには丸焼きにするのが一番。より大きく美味い丸焼きを食べたい!』というコンセプトで作った超大型肉焼き魔道具ぅ。それは結果的に火力不足で物凄く明るくてそこまで熱くないものになってしまいぃ、安く払い下げされてぇ、ここに来ましたぁ。」
という、あまりにもくだらないものだった。
数人の胃に穴が開いた。
ブックマーク、ありがとうございます。ギリギリ投稿で申し訳ありません。
児童向け本の大賞に応募する作品を書いていました。
まさかの当日書き直しという強行をやらかしましたが、無事投稿、完了です。
よかったら、読んでみてください。




